この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
渡して来たのは、振り付けを手掛けるコーチやコレオグラファー。
オリンピックで金を採って以降、振り付ける側からの勧誘が増えたが、何故か今回は異常にその数が多かった。
脇道に逸れてしまった思考を戻そうと、名刺を拾い集めたヴィヴィは、それをバックの中に戻す。
「………………」
今日兄に抱かれに行かなければ、次に会えるのは5~6ヶ月後。
そんなに長い間、生まれてこの方、自分は兄と離れて生活したことはない。
最長でも2ヶ月。
それでも会えずに寂しかったのに、その3倍近くもの期間、兄に会うことも触れる事も出来ない。
自分はきっと耐えられる。
何故なら、その心の中には、兄しかいないから。
匠海しか、求めていないから。
けれど、匠海は違う。
耐えられる訳がない。
いや、耐える必要さえない――兄は誰のものでも無いのだから。
何人の女と関係を持とうが、今はいないと言っていた恋人を作ろうが、兄の自由だ。
そして、自分もそれを咎める事はない。
ただ、怖い。
自分を抱く事に飽きられる事が――。
「もう、飽きた」
「こんなこと、終わりにしよう」
そう兄の口から宣告される日が来る事を、自分は恐れている。
ヴィヴィはカードキーを握りしめたまま、後ろに据え置かれたベッドにへたり込んだ。
いつかは来るのだと思う、終わりの日は。
自分が兄を思う気持ちはきっと死ぬまで変わらないだろうが、匠海はそうでは無いのだから。
(いっその事、ヴィヴィから、離れようか……)
ふと心に湧いたその案に、ヴィヴィの気持ちが揺れたが、それも一瞬の事。
そんな事、あの兄が許す訳がない。
自分に対する匠海の在り方を変えてしまう起因を作ったのは、紛れもない自分。
勝手に思い詰めて、拘束した上に兄を穢した。
『復讐』まで口にした匠海が、自分から離れたいと言った妹を、「はいそうですか」と手放す訳がない。
「……いや、でも、もしかしたら……」
ヴィヴィの薄い唇から、心の声が漏れる。
逆にそれは一つの手なのかもしれない。
自分から躰の関係の清算を迫れば、兄は絶対に許さない。
より妹に執着するのではないか。