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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章            

 渡して来たのは、振り付けを手掛けるコーチやコレオグラファー。

 オリンピックで金を採って以降、振り付ける側からの勧誘が増えたが、何故か今回は異常にその数が多かった。

 脇道に逸れてしまった思考を戻そうと、名刺を拾い集めたヴィヴィは、それをバックの中に戻す。

「………………」

 今日兄に抱かれに行かなければ、次に会えるのは5~6ヶ月後。

 そんなに長い間、生まれてこの方、自分は兄と離れて生活したことはない。

 最長でも2ヶ月。

 それでも会えずに寂しかったのに、その3倍近くもの期間、兄に会うことも触れる事も出来ない。

 自分はきっと耐えられる。

 何故なら、その心の中には、兄しかいないから。

 匠海しか、求めていないから。

 けれど、匠海は違う。
 
 耐えられる訳がない。

 いや、耐える必要さえない――兄は誰のものでも無いのだから。

 何人の女と関係を持とうが、今はいないと言っていた恋人を作ろうが、兄の自由だ。

 そして、自分もそれを咎める事はない。

 ただ、怖い。

 自分を抱く事に飽きられる事が――。

「もう、飽きた」

「こんなこと、終わりにしよう」

 そう兄の口から宣告される日が来る事を、自分は恐れている。

 ヴィヴィはカードキーを握りしめたまま、後ろに据え置かれたベッドにへたり込んだ。
 
 いつかは来るのだと思う、終わりの日は。

 自分が兄を思う気持ちはきっと死ぬまで変わらないだろうが、匠海はそうでは無いのだから。

(いっその事、ヴィヴィから、離れようか……)

 ふと心に湧いたその案に、ヴィヴィの気持ちが揺れたが、それも一瞬の事。

 そんな事、あの兄が許す訳がない。

 自分に対する匠海の在り方を変えてしまう起因を作ったのは、紛れもない自分。

 勝手に思い詰めて、拘束した上に兄を穢した。

 『復讐』まで口にした匠海が、自分から離れたいと言った妹を、「はいそうですか」と手放す訳がない。

「……いや、でも、もしかしたら……」

 ヴィヴィの薄い唇から、心の声が漏れる。

 逆にそれは一つの手なのかもしれない。

 自分から躰の関係の清算を迫れば、兄は絶対に許さない。

 より妹に執着するのではないか。

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