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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
ヴィヴィの小さな頭がはっと持ち上がる。
自分が「お兄ちゃんと、もうしたくない」と言い続ければ、匠海はずっと自分に執着し続けてくれるのではないか。
何故なら、絶対的に自分のものと思っている者に掌を返されて、飼い犬に手を噛まれて、面白い人間がいる筈がない。
ヴィヴィはカードキーを握った手で唇を弄りながら考え抜いたが、やがではぁと深い息を吐いた。
(『お子ちゃま』のヴィヴィに、単純なヴィヴィに、
そんな大人の女の駆け引き、出来る訳ない……。
きっとすぐに、多分1回抱かれただけで、お兄ちゃんに見破られる……)
ヴィヴィはゆっくりと自分の両脚をベッドから引き上げると、その胸の中に抱え込む。
膝の上に乗せた頭から、金色の髪がさらりとその小さな背中と両腕に包まれた脚を覆う。
女として愛して貰える可能性は、もはや皆無なのだろうか――。
自分達が血の繋がった実の兄妹ということは、分かっている。
6歳も齢が離れた大人と子供、外見的にも釣り合いが取れていないということも。
美形の兄に対し、お世辞で可愛いとしか言われた事のない自分は、似合わないということも。
全て解っていて、それでもなお、女として愛してもらえる可能性は無いのだろうか。
「………………」
自分の事を好きじゃない人間を、他人が好きになってくれる筈がない。
それはもう分かっている。
だから自分を好きになれるよう、努力し続けている。
これからもそうする。
そうすれば、兄は少しずつでも、自分に振り向いてくれるだろうか。
それは言わば、一種の賭けでしかないが――。
ゆっくりと膝から顔を上げたヴィヴィの視線が、デスク上のデジタル時計にとまる。
23:40。
さすがに酒豪の兄も、もう友人と別れて部屋に戻っている筈。
なにせ、自分が来る事を分かっているのだから。
ヴィヴィはデスクの上の三面鏡に視線を移す。
そこに映った、すっぴんでしょぼくれた表情の自分は、先程まで煌びやかな場所にいたスケーターの自分とは、明らかにかけ離れていた。