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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
(なんて顔、してるの……。今から、お兄ちゃんを一晩中、喜ばせなきゃいけないのに……)
そう心の中で自分を叱咤しながらも、その一方で、「どうせ後ろから貫かれるんだから、どんな顔してても分からないけどね」と自嘲する自分もいた。
すくとベッドから立ち上がったヴィヴィは、躰に巻きつけたままだったバスタオルを外すと、手早く衣服を身に纏う。
2枚のカードキーとスマートフォンだけを手に部屋を出たヴィヴィは、真っ直ぐにエレベーターへと向かった。
階上へのボタンを押すと、エレベーターはすぐに到着した。
もう深夜、こんな時間に利用する客も少ないのだろう。
目的の階数のボタンを押したヴィヴィは、箱の真ん中に立ち尽くす。
重厚な扉が閉まり、上へと引き摺り上げられていく奇妙な感覚に、躰を預ける。
ブーンと静かなモーター音が鳴る中、ヴィヴィは自分の躰を震える腕で抱きしめた。
小さな顔が、泣き出す一歩手前の苦しそうな表情に歪む。
(あんなに……、あんなに、自分を好きになる為に頑張ってきたのに……。
今、ヴィヴィ、自分のこと、嫌い……っ)
薄い唇が小さな歯できゅっと噛み締められ、その色を白くする。
(やっぱりこんなの、間違ってる。
偽りの自分で抱かれて、そんなに必死にこの関係に縋り付いて、
その先に何があるの――?
ヴィヴィだったら、嫌。
ヴィヴィは、お兄ちゃんが躰を繋げている時、
自分みたいに “空っぽの人形” だったら、嫌だっ!)
ヴィヴィは躰に巻きつけていた腕を解くと、ぎゅっと拳を握りしめた。
ポーンというエレベーターの到着音と共に開かれたその扉。
長い睫に縁どられた大きな瞳が、しっかりと意思を宿し、力強く前を見据える。
(お兄ちゃんはヴィヴィを抱く時、『喜び』を感じるって言ってくれた。
だからヴィヴィも、今の自分の気持ち、伝えてみよう。
上手く説明する自信無いけれど、
お兄ちゃんならきっと、最後まで聞いてくれる)
ヴィヴィは震える脚を一歩踏み出す。
最初は心許なかったその歩みは、やがて意志を持ったしっかりしたものに変わる。