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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章
匠海はまるで物分りの悪い妹に噛んで言い含めるように、柔らかい声で諭し始めた。
「考えてもみろ、お前は俺の妹。
俺達がやっていることは、『近親相姦』だ」
ヴィヴィの薄い胸が、中からどくりと大きく戦慄く。
「……おにい、ちゃん……?」
薄い唇から洩れた声は震え、やがてその唇さえも震え始めた。
さあと波が引いていくように、赤かった頬から血の気が失せていく。
その柔らかな頬を大きな掌で包んだ匠海は、妹の目と鼻の先で美しく嗤った。
「血の繋がった実の妹との、禁断のセックス――。
ごく限られた、選ばれた人間にしか味わえない、究極の『蜜の味』だ。
いくら金を積んだとしても、どれだけ努力したとしても、
誰もが手に入れられる訳じゃない。
それを俺達は互いの利害が一致して、好きなだけ貪れる。
これが興奮しないでいられるか――?」
「………………」
ヴィヴィの灰色の瞳が、ゆっくりと極限まで見開かれる。
そしてその下の唇も、弛緩して薄く開き、ただ浅い呼吸を繰り返す。
(この人は、誰……?
ヴィヴィの目の前にいる、この男は、誰……?)
見開いた瞳がジンとして痛く感じた頃、匠海は改めて口を開いた。
「ヴィクトリアだって、そうなんだろう?
だってお前、俺に抱かれてる時でさえ『お兄ちゃん』って呼ぶしな」
「それは――」
咄嗟にそれだけは説明しようとしたヴィヴィを、匠海が遮る。
「俺達の唯一の欠点は、あれだな……。
お前と俺の産みの母親が、違う事だな」
そう零した匠海は、微笑みを浮かべたまま、小さく舌打ちした。
「………………」
あまりの事に頭の回転が追い付かず、ただただ呆然と兄を見続けるヴィヴィに、匠海は苦笑した。
ヴィヴィの瞳が小刻みに震える。
(何で、笑っているの……?
何が、そんなに可笑しいの……?
何で、そんな事を言うの……?)