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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第80章

もはや全身がかたかたと震え始めたヴィヴィの、その薄い唇を、兄は指の腹でつうと辿った。
「考えてもみろ、俺達の産みの母親が同じだったら、
もっと躰の相性が良かったかもしれないんだぞ?」
困ったようにそう続けて苦笑いする匠海は、こんな酷い事を口にしているのに、信じられないほど綺麗だった。
嫌だ。
目を逸らしたいのに、逸らせない。
お兄ちゃん、貴方だけはどうしてそんなに、美しいの――?
「…………や、めて……」
ヴィヴィが首をふるふる振る。
もう聞きたくない。
これ以上言わないで、お願い――。
瘧に罹ったようにがくがくと震える両手が、小さな耳を覆う。
けれどその細い両腕は、匠海にぐっと握り締められた。
苦しそうに細められた視線の先、大きめの唇を引き上げた匠海が嗤う。
「『近親相姦』は、血が濃いほど好いらしいからなあ?」
ひゅっ と息を飲む音が鳴った広いリビングに、次に続いたのは、絹を引き裂くような絶叫。
「いやぁああああ――っ!!」
その後の記憶はあやふやで。
兄の両腕を必死に振り解き、何とかコートを引っ掛け、部屋を飛び出し――。
気が付いた時には、自分の部屋の玄関に立っていた。
荒かった息が徐々に落ち着き、ボタンも留めずに必死に握っていたコートの前合わせから、両手が滑り落ちていく。
だらりと落ちた両腕の先、手の甲がこつりと当ったのは壁に据え付けられた大きな姿見。
そこに映ったのは顔面蒼白で、心底疲れ果てた自分の顔。
そしてその下――白いコートから覗く、馬鹿げたほど厭らしい下着。
「……――っ」
ヴィヴィはバサバサと音を立ててコートを脱ぎ去ると、その下のベビードールを見るのも汚らわしいという風に、自分の躰から剥ぎ取った。
それを入れていた花柄の布袋に詰めると、ベッドの上に投げ捨てる。
そんなふうに物に当たった事など一度もなかったヴィヴィが、その虚しさに顔を歪める。
「そんなこと……、思ってたんだ……」
掠れた声を漏らした唇の奥、ぎりりと音を立て、奥歯が噛み締められる。
「……――っ」

