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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章        

 次にヴィヴィが意識を取り戻したのは、電話のベルの音だった。

 バスルームの床に横たえていた身体をしんどそうに起こしたヴィヴィは、プルルと鳴り続けるそれにとにかく出ようと壁伝いに立ち上がり、タイルの壁に掛かっている子機に手を伸ばす。

「は、い……」

 傍にあるバスタブに腰を下ろしたヴィヴィは、そう短く応答する。

「あ、ヴィヴィ~? もう、8時よ~?」

 受話器から聞こえてきた能天気すぎる声は、母ジュリアンのもの。

 そういえばホテルのレストランに、8時に集合する約束をしていた。

「……あ、ごめ、ん……」

 ヴィヴィはそう呟きながら、まだふらふらする頭の隅で計算する。

 兄の部屋に行ったのがおそらく24時頃。

 すぐに自分の部屋に逃げ帰ってきた自分は、それから7時間も、ずっとここで寝ていたのか。

 いや、気を失って倒れていたのか?

「あら、まだ寝てたの? 準備して、朝食に出て来なさい?」

 呆れた母の声に、ヴィヴィは額に手をやり謝る。

 冷たい汗の浮かんだ額は、自分でも驚くほどひんやりしていた。

「ん……。ごめん、ヴィヴィ、食欲、ない……」

(っていうか、まだ、気持ち悪い……)

「え? 大丈夫? 気持ち悪いの?」

 途端に心配そうな声を上げる母に、申し訳なくなる。

「少し……。出発、何時……?」

「えっと、ホテルを10時ね」

 後1時間半は横になれる。

「……ぎりぎりまで、横に、なってる……」

「大丈夫? とにかく私、そっち行くわね」

 そう言って電話を切ってしまったジュリアンに、ヴィヴィは、

「え……、大丈夫……」

と続けたが、その声が相手に届く筈もなく。

 はぁと小さく息を吐き出したヴィヴィは子機を戻すと、ゆっくりとバスタブから腰を上げた。

 咽喉が乾く。

 身体が熱い。

 脱水症状の様なしんどさを訴えてくる身体に、ヴィヴィはふらふらとバスルームを出た。

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