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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章        

 ベッドに放り出したままのコートをクローゼットに直し、小さな冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して喉を潤す。

 食道を伝い落ちていく冷たさを心地良いと思い、ほっとしたヴィヴィの視線の先、小さな花柄の布袋があった。

 それを目にした途端、ヴィヴィの脳裏に昨日の事がフラッシュバックする。




『血の繋がった実の妹との、禁断のセックス――』

『「近親相姦」は、血が濃いほど好いらしいからなあ?』
 



 ヴィヴィの灰色の瞳が震え、そしてまた胃がぐっと締め付けられた。
 
 先程まで美味しく感じていたスポーツドリンクの味も、冷たさも、全てが不快に感じ、ヴィヴィはバスルームへと駆け込む。

 トイレまで辿り着けなくて、手前の洗面台に突っ伏すヴィヴィの胃からは、先ほど摂取した水分と、胃液しか出てこない。

 吐き出すものもないのに痙攣し続ける胃に、ヴィヴィの意識が朦朧とし出す。

(駄目、ここで、倒れたら……。マム、来ちゃうのに……)

 ヴィヴィは小さく頭を振って霞み始めた頭を奮い立たせると、壁伝いにバスルームを出て、ベッドへと倒れこんだ。

 羽毛布団の中に何とか潜り込んだ時、部屋の扉が開かれる音がする。

 預けていたスペアのカードキーで入ってきたジュリアンは、ベッドの中のヴィヴィを見つけて寄って来た。

「ヴィヴィ、どう? 気持ち悪い?」

 上から覗き込んできたジュリアンに、ヴィヴィは曖昧に頷く。

「……ん……。少し横になれば、大丈夫……」

 娘の前髪を掻き分けて掌を額に乗せた母は、「う~ん」と唸る。

「熱は無いわね……。冷た過ぎるくらい。なんか、飲む?」

「ううん……。あ、ごめん、お水だけ、ここ、置いておいて……?」

 脱水症状状態なのにまた吐いてしまい、身体がカラカラのヴィヴィは、ベッドサイドを視線で示してお願いした。

「お水ね? いつから気持ち悪いの?」

 娘に背を向けて冷蔵庫へと歩いていく母の問い掛けに、ヴィヴィは小さな声で答える。

「……昨日、寝る時……から」

「あら! 駄目じゃない、ちゃんと連絡してきなさい。ヴィヴィの身体は貴女だけのものじゃないのよ?」

 厳しい顔で振り向いた母に、ヴィヴィは驚く。

「……え……?」

(ヴィヴィの身体は、自分だけのものじゃない……?)

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