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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
「自覚足りないわね。チームの皆でクリスの身体もヴィヴィの身体も造り上げてきたのに」
「あ……、ごめん……」
ジュリアンの言う通りだ。
特に柿田トレーナーや大塚薬品工業の栄養士なんて、もろ自分達の身体を造り上げてくれている。
素直に謝ったヴィヴィに、ミネラルウォーターとグラスを取って戻ったジュリアンは、微笑みかけた。
「ふ……。それに貴女達は、私とグレコリーの愛の結晶なんだから。自分の身体、大事にしてよね? My Sweet Bambi」
“父との愛の結晶” と恥ずかしげもなく言う母に、ヴィヴィは苦笑し、そして以前から気になっていたことを口にする。
「……ふふ……。前から、思ってたんだけど……」
「なあに?」
少し元気そうな様子を見せた娘に、ジュリアンは笑みを深める。
「クリスは、何、なの? ほら……、ヴィヴィは、Bambi(小鹿ちゃん)で、お兄――」
そこで言葉を止めたヴィヴィは、ぐっと顔を歪め、掌で口を覆う。
「ヴィヴィっ!? 大丈夫? 吐く?」
「……――っ ……だ、いじょう、ぶ……」
ヴィヴィは上がってきたものを必死に飲み下すと、何とか返事する。
胃液の苦さに、目に涙が浮かぶのを必死に誤魔化す。
「ねえ、英国の病院で診てもらう? 帰りの便は変更すればいいんだし……」
心配そうに覗き込んでくる母に、ヴィヴィは小さく頭を振る。
「……ううん……だい、じょうぶ……」
「大丈夫って、ヴィヴィ……。そんな状態で、飛行機なんて――」
ジュリアンの助言を遮って、ヴィヴィはぽつりと呟いた。
「帰り、たい、の……」
「え?」
「……早く、日本……、帰りたい……」
眉根を寄せて辛そうにそう呟くヴィヴィ。
「ヴィヴィ……?」
不可解な表情を浮かべる母に、娘は据わった眼で呪文のようにぶつぶつと呟く。
「……お寿司……お刺身……天ぷら……海苔巻き……」
「……ぷっ はいはい、早く、和食が食べたいのね? この食いしん坊さん」
ヴィヴィの強がりは通じたようだ。
ジュリアンは苦笑すると、娘の白い頬を指先で撫でた。
その暖かな体温に、ヴィヴィの心がほっと緩む。