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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章        

「そっか、ヴィヴィは女の子だもんね……。ええと、あと1時間くらいで搭乗して、3時間後にドイツ・ミュンヘン空港での乗り換え。羽田到着は明日の13時頃だね……。本当に、大丈夫……?」

 チケットに記載された時刻を読み上げたクリスが、心配そうにヴィヴィに確認してくる。

「うん。爆睡してれば着くと思う。16時間くらいでしょう?」

「うん……」

 たまに胃が気持ち悪くなるが、もうもどす程でもない。

「食事はやめておくね。人間、しばらく食べなくても、生きていけるらしいから……」

 空の上で気持ち良くなってはシャレにならないと、ヴィヴィは肩を竦めてみせた。

「極論、だけどね……。でも水分は取ろうね……?」

「うん、ありがとう、クリス……」

「少し、眠るといい……」

 そう言って妹を自分の肩に引き寄せたクリスに、ヴィヴィは頭を預けて瞼を閉じた。

「うん……」

 しばらくウトウトしていると、ジュリアンが戻ってきたらしい。

 その声で目を覚ましたヴィヴィは、差し出されたミネラルウォーターで少しずつ水分を採った。

「ま、でも食あたりではないみたいね。お腹は下してないんだから」

 ジュリアンのその見立てに、ヴィヴィも頷く。

「もうすぐ、搭乗時間だよね? ヴィヴィ、パウダールーム、行ってくる……」

 腕時計で時間を確認したヴィヴィは、ブランケットを畳むと、ゆっくりとソファーから立ち上がった。

「一緒に行く?」

 ジュリアンがそう言って、席を立とうとしたが、ヴィヴィは「大丈夫」と答え、ゆっくりとパウダールームへと向かった。

 用を済ませたヴィヴィは、楕円形の鏡の前に据え置かれた、陶器の洗面台で手を洗う。

 冷たすぎない水の温度と気泡を含んだその感触が気持ちよくて、ヴィヴィはしばらく水に手をさらしていた。

「………………」

(今はとにかく、何も考えちゃ駄目……、

 考えるのは、日本に帰ってから、それから……)

 流れ去っていく水に、自分の思考も何もかも溶かし捨てるように、自分に言い聞かす。

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