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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
やがて水流から手をのけたたヴィヴィは、バックを忘れてきたことに気づき、エアタオルを探して視線を上げる。
きょろきょろと首を巡らせ、右側の壁に目的の物を見つけたヴィヴィは、手の雫を払い落し顔を上げた。
その視線の先、目の前の鏡に映る、襟の隙間から覗いた金色の鎖を目にした途端、約5ヶ月前の記憶がヴィヴィの目の前に蘇る。
「『ヴィクトリアは俺のもの』……なんだろ?」
「首輪がわり」
ヴィヴィの大きな瞳が小刻みに揺れ、それはやがてぐるぐると弧を描く。
そして頭の中に響く、匠海の嘲笑と嘲りの言葉。
「考えてもみろ、お前は俺の妹。
俺達がやっていることは、『近親相姦』だ」
「それを俺達は互いの利害が一致して、好きなだけ貪れる。
これが興奮しないでいられるか――?」
「……――っ!!」
胃が信じられない程の力で引き攣れてうねり、全身からどっと冷や汗が噴き出した。
這い上がってきた吐瀉物という名の胃液を、何とか目の前の洗面台で吐き出すと、ヴィヴィの身体はそのままずるずると床に崩れ落ち、そしてそのまま動かなくなった。
「お兄ちゃんっ 待って~!」
初等部1年生位のヴィヴィが、弾んだ声を上げながら、青い芝生の広い庭を駆け回っている。
丸い頬を凪ぐのは、夏と言うには冷た過ぎる程の涼しい風。
ああ、ここはエディンバラの母の生家だ。
大きな屋敷の1階には、ガラス張りの広大なプールが見える。
小さな背中の半分以上まで伸びた明るい金色の髪をたなびかせながら、ヴィヴィはきゃっきゃと走り回っていた。
「待ってってば~っ! お兄ちゃんっ」
自分の目の前を、悪戯っぽい表情を浮かべながら駆けているのは、こちらも中等部1年生くらいの、まだ少年の匠海。
「あはは。ヴィヴィ、待ってあげたら、鬼ごっこにならないだろう?」
そう妹を笑い飛ばす声も、まだ声変わりしたての少し高い声。
「え~……、ヴィヴィ、もう疲れちゃった~」
ぴたと小さな足を止めたヴィヴィは、そう呟くとしゅんと小さな肩を落とす。