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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
「――ゃ、Ms.篠宮っ 聞こえますか?」
「ヴィヴィっ ヴィヴィっ 聞こえるっ?」
知らない男性の声に続き鼓膜を震わせたのは、母の泣きそうな声。
「……っ ぅ……っ」
ヴィヴィは意思表示をしようとしたが、咽喉から漏れるのは細い息のみ。
「聞こえていたら、右手を握って下さい」
頭はもうろうとし、身体は鉛の様に重いのに、何故か聴覚だけははっきりと働いていた。
そしてさらにクリアになった聴覚は、緊急車両のサイレン音を捉える。
「意識レベル2。受け入れ先の病院ですが、バーミンガムでかかりつけ医は?」
「あ、ありませんっ 日本に住んでいるので」
「分かりました。近くの救急病院へ搬送します。Ms.篠宮、チクッとしますよ? ……ライン確保」
母と男性のやり取りで、自分は救急車に乗せられているのだとやっと把握した。
「…………ク……ス……」
急に心細くなり双子の兄の名を呼べば、暖かい感触がすぐ傍にあった。
「大丈夫だよ、ヴィヴィ。もうすぐ病院、着くからね?」
その優しい声音に安心したヴィヴィは、またそこで意識を失った。
次に意識が戻った時、ヴィヴィは白い空間にいた。
霞んでいた目が徐々にしっかりと像を結びだし、嗅覚が病院独特の匂いを捉える。
「Ms.篠宮。聞こえますか?」
呼ばれて視線を声がしたほうへ向けると、青いスクラブ(半袖の医療衣)に身を包んだ女医がいた。
「……は……い……」
掠れた声で意思表示をしたヴィヴィに、女医が事務的に続ける。
「ここはバーミンガム市立病院です。お母様から服薬についてお伺いしましたが、ピル以外に口にした薬物はありますか? 例えば、鎮痛剤、ステロイド剤、抗生物質、強心剤等……」
ヴィヴィは小さく首を振る。
「飲酒はしていませんね?」
追加の確認に、ヴィヴィは小さく首肯する。
「ストレスはどうかしら? 倒れる数時間前に強いストレスにさらされたり――」
そこまで口にした女医は言葉を区切ると、ふっと息を吐いた。
「そりゃ、ストレスくらいあるわよね? 大きな試合だったんですもの」
急に砕けた口調でマスクの上の瞳を優しく細めた女医に、知らずと強張っていたヴィヴィの心が少しだけ解れた。