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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章        

「分かりました。おそらく急性胃炎ですので、今から内視鏡検査をします。したことある?」

「…………い、え」

 そう発した声は、少ししっかりしたものに変わっていた。

 薬剤が投与されたのか、胃の不快感も殆どない。

「これ、外すわね? 咽喉に胃カメラ通すから」

「………………?」

 女医が自分の首元に手を伸ばし、数十秒程そこに暖かな指の感触がした。

 かちりと小さな音がしてそちらに視線をやると、透明な手袋に包まれた女医の掌から、馬蹄型のペンダントトップが覗く。

「……――っ」

 ヴィヴィの灰色の瞳が硬直し、その直後、胃が痙攣し始めた。

 みぞおちを押さえて身を捩るヴィヴィを看護師に押さえさせた女医が、その口元にステンレストレーを添える。

「吐いていいわよ。ブスコパン注、追加で。後、念のため、ミンクリア、用意しておいて」

 近くでぱたぱたと足音がしたかと思うと、腕にチクリとした痛みを感じた。

「胃の動きを抑制する薬を投与したから、数分で楽になるわ。そしたら検査を始めましょう」

 自分の背を撫でてくれる誰かの手と、女医の落ち着いた声音に、ヴィヴィの強張っていた身体からやがて力が抜けた。

「うちは内視鏡に鎮痛剤は使わないの。貴女もドーピング検査あるし、使わないほうがいいでしょう?」

 目の前で大きな機械を操作しながらそう確認してくる女医に、ヴィヴィは小さく頷く。

 白いマウスピースを咥えさせられたヴィヴィに、女医が囁く。

「ちょっと苦しいかもしれないけれど、まあ……我慢して?」

 そう恐ろしい事を口にした女医が、ヴィヴィからしてみれば太く見える内視鏡を挿入していく。

 それからの数分間、ヴィヴィは心の中で叫んでいた。

( “ちょっと苦しい?” ……? めちゃくちゃ苦しいんですけど――っ!!)







 検査が終了しぐったりしたヴィヴィは、ストレッチャーに寝かされたまま、内視鏡検査室からどこかへ運ばれていた。

 病院の廊下の天井をずっと見上げるなど経験のないヴィヴィは、はぁと息を吐き出す。

(そういえば、救急車に乗ったのも、病院でこういう風に入院(?)したのも、初めて……)

 静かな車輪の音を聞きながら、ぼうとそんな事を考えていると、どうやら病室らしき所に辿り着いたらしい。

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