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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
「ヴィヴィ、ただの胃炎なんだって。もう点滴受けるだけで、明日退院するから、帰っていいよ? ごめんね~、きっとマムが引き留めたんでしょう? 大げさだなあ」
苦笑して見せたヴィヴィに、匠海が当惑した表情を浮かべて見下ろしてくる。
「……ヴィヴィ?」
「ほら、明日から大学でしょう? 講義さぼると、落第しちゃうよ? ヴィヴィ、周りに『私のお兄ちゃんは、超天才!』って自慢してるんだから、それだけは、やめてよね?」
そう矢継ぎ早に言って、匠海を可愛く睨み上げたヴィヴィに、クリスのほっとした声が被さる。
「ヴィヴィ、明日退院できるんだ? 良かったね……」
「うん。ヴィヴィ、早く日本帰って、料理長の作ったおかゆ食べたい~っ 後ね、お刺身でしょう? お寿司に~」
クリスのほうを振り向いてそう我が儘を言えば、双子の兄は瞳を細めた。
「はいはい。胃が落ち着いてからね……?」
「は~い。ふわわ……、ヴィヴィ、眠たくなっちゃた……。もう、胃カメラ、しんどすぎぃ……」
そう言ってうんざりした顔をしたヴィヴィに、クリスがその頭を撫でる。
「ん。寝ていいよ……」
「クリス、お兄ちゃんを送ってきて? お兄ちゃん、ごめんね? 気を付けてオックスフォード、帰ってね?」
「ああ……」
匠海は特にそれ以上何も言わず、クリスに促されて病室から出て行った。
スライドドアが静かに閉まった突端、ヴィヴィの小さな顔がくしゃりと歪む。
血が足りないのか頭が痛く、鈍痛がしていた。
(ごめん、クリス……、ヴィヴィ、甘えてばっかりだ……)
クリスが自分に求める「可愛い妹」像に全然応えられていない。
その申し訳なさで頭がいっぱいになり、ヴィヴィはそれを耐えるようにぎゅっと瞼を瞑った。