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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
『ストレス性の急性胃炎よ。治療法はストレスの原因の除去と、安静。だから、日本に帰ってもストレスを溜め込まないことね?』
ふと女医の言葉を思い出したヴィヴィは、今、機上の人になっていた。
ファーストクラスのフルフラットシートに身を横たえたヴィヴィは、ここ数日を振り返る。
匠海の部屋から逃げ帰り、バスルームで倒れた自分は、翌日、空港のパウダールームで気を失うという失態を犯し、病院に担ぎ込まれた。
その日は入院し、翌日は空港近くのホテルで一泊し、今日の便で英国を発ち、羽田への到着は明日の昼過ぎだ。
体を起こしたヴィヴィは、すぐ傍に置かれた白湯を口にし、また横になる。
「………………」
クリスはとても甲斐甲斐しく、自分に付き添ってくれた。
初めての病院で過ごす夜は、怖がりのヴィヴィには苦痛だろうと病室に泊まってくれたし、翌日のホテルでも急遽手配したリンクへ行く時間以外は、ずっと傍にいてくれた。
母ジュリアンも牧野マネージャーを先に帰らせてしまっていたため、関係各所への連絡等に追われていたが、ほとんどを自分に寄り添い過ごしてくれた。
(ストレスの原因の除去……、か……)
ヴィヴィはふっと息を吐き出す。
(充分だ……。半年近くも、離れるんだから……)
そこまで考えたヴィヴィは、強制的に思考をシャットダウンした。
今は何も考えないこと。
この期に及んで空の上で体調を崩しては、もう母とクリスに顔向け出来ない。
「ヴィヴィ、起きてる……?」
微かに聞こえたクリスの声に「うん……」と返せば、シートを仕切っていた小さな扉が開かれる。
「これ、見て……?」
「………………?」
差し出されたのはクリスのiPad。
イヤホンを装着し、その大きな画面に表示されていた動画を開く。
「……あ……っ」
ヴィヴィの薄い唇から、小さな驚きの声が漏れる。