この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章
警備員が報道陣を抑える隙にリムジンへと乗り込んだヴィヴィは、静かに車が走り出す中、先ほど掛けられた質問を思い出していた。
『バーミンガム市立病院に入院されたのは、本当ですか?』
『病名は何だったのですか?』
『ファンの皆さんが心配しています。一言でいいのでメッセージをお願いしますっ』
大体がそんな質問内容だった気がする。
ヴィヴィはクリスの肩に凭れ掛かりながら、スマートフォンを操作した。
「牧野マネージャー。今、HPに乗せる日記の内容送りました。それでOKだったら、なるべく早くに更新して貰えますか?」
助手席に座った牧野にそう声を掛けると、彼は自分のスマホを取り出し、内容を確認する。
「うん。これでいいよ。日本語と英語で、載せておく。バンケットで撮った、クリスとコーチとの写真も一緒にUPしていいか?」
「はい……。いいえ。表彰式後に牧野マネージャーと柿田トレーナーと5人で撮ったやつ、あれにして下さい」
(皆で、一緒に戦ったんだから……)
そのヴィヴィの気持ちが伝わったのか、ミラー越しにこちらを見つめた牧野の顔には微笑が浮かんでいた。
「……分かったよ」
『関係者各位、ファンの皆様。
この度は自分の不注意で混乱を招き、申し訳ありませんでした。
英国の病院に検査入院し、もう既に回復しています。
少し疲れが出ただけです、ご心配をお掛けしました。
来季に向けてより一層頑張りますので、応援して頂けると嬉しいです。
篠宮ヴィクトリア』
屋敷に帰り着いたヴィヴィを待っていたのは、心配気な表情を浮かべた使用人達だった。
特に朝比奈はもろに顔に出ていて、ヴィヴィはその表情を見た途端、自分の執事の胸に飛び込んでいた。
「ごめんなさい。心配掛けて。でも、大丈夫だから……ね?」
いつもなら「使用人に主が抱き着くなんて!」と目くじらを立ててお小言を言ってくる朝比奈が、ぎゅっとその胸にヴィヴィを抱き寄せた。
「お嬢様のお顔を拝見出来て、ホッとしました。お帰りなさいませ」
そう言ってヴィヴィの両肩に手を添えてその体を離した朝比奈と、五十嵐、料理長、家令、その他の皆に、ヴィヴィはにっこりと微笑んだ。
「うん。ただいま」