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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第81章        

 3枚の写真を手に取り、それぞれをじっくり見ていたヴィヴィの手首を、父が優しく掴んだ。

 その手から写真を抜き取った父は、ヴィヴィの両手を握りしめてくる。

 大きくて暖かな掌に包まれて、ヴィヴィはほっとした。

「私達家族にとって、お前は本当に宝物なんだ」

 父のその重みのある言葉に、ヴィヴィも頷く。

「ヴィヴィも、みんなの事、そう思ってる……」

(本当に、かけがえのない家族だと思ってる……)

 そんな娘の顔を、父は覗き込むように強い瞳で見つめてくる。

「いいかい、ヴィヴィ。もし、スケートをするのが苦痛になったのなら、辞めればいい」

「……え……?」

 父の意外な言葉に、ヴィヴィは驚いて微かに瞳を見開いた。

(ダッド……?)

「確かにお前もクリスも、歩くよりも先に氷に乗ったような子だ……。けれど私とジュリアンが愛しているヴィヴィは、 “スケーターのヴィヴィ” じゃない。そのまんまの “ただのヴィヴィ” だ」

 そう言い切った父の瞳には、紛れもない慈愛の光が灯っていた。

「……ダッド……」

 父がどれほど自分の事を心配し、考えてそう口にしてくれたかが分かり、ヴィヴィの薄い唇が震えた。

 そんなヴィヴィの様子に気付いた父が瞳を細め、包んでいた両手にさらに力を込める。

「ヴィクトリア……私の可愛い子……。

 どうか、幸せになっておくれ。

 それが唯一、私がヴィヴィに求める事だよ

 ――My sweet bambi(私の可愛い小鹿ちゃん)」

 言い終えて心底愛おしそうに微笑んだ父の表情に、ヴィヴィの薄い胸がぎゅうと締め付けられた。

「……――っ」

 心が震えた。

 身体が震えた。

 苦しさを増す胸とは別に、身体の奥底から湧き上がってくるのは、途轍もない罪悪感。

「ヴィヴィ、どうした……?」

 目の前の愛娘が身体を大きく震わせ、灰色の瞳からぼたぼたと大粒の涙を零すのを認めた父が、驚いてヴィヴィを覗き込んでくる。

「ごめん……なさいっ ……ごめんなさい――っ」

 もう、その言葉しか出てこなかった。

 謝る事しか出来ない。

 許しを請う事なんて、絶対に出来やしない。

 ただただ溢れ続ける贖罪の言葉と、懺悔の涙を零し続けるヴィヴィは、父の胸に抱き込まれ――。

 そしていつの間にか、その意識は遠退いていた。





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