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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
世界選手権から帰国した1週間後――3月後半。
胃炎も完治しすっかり元気になったヴィヴィは、春休みに入りスケートと勉強に明け暮れていた。
予備校の基礎力を試す模試も受け、今回はクリスに及第点以上だと褒められた。
そしてその日もリンクから戻り、勉強を始めようとしていたヴィヴィは、書斎で着信に気付いた。
「あ、れ……? スカイプ……?」
そう呟いた途端、ヴィヴィの心臓がぎくりと痛みを伴う歪みを訴えた。
薄い唇が震え出す。
鼓動が不正な脈を刻み始める。
恐る恐る着信相手を確認すると、その意外な着信相手に拍子抜けしたヴィヴィは、すぐにテレビ電話に出た。
「ハイ! ヴィヴィ」
書斎のPC画面にでかでかと映し出された、その大柄な女性は――、
「ジャンナっ!? 久しぶり! び、びっくりした~」
ヴィヴィは灰色の瞳をぱちくりさせて、自分のロシア人振付師、ジャンナ・モロゾワを見つめる。
(ヴィヴィ、てっきり、お兄ちゃんからかと……)
「ふふ。お久しぶりね、ヴィヴィ。驚かせてごめんなさいね?」
「ううん……、うふふ。嬉しいです。お元気ですか?」
本当に久しぶりに目にするジャンナは、いつも通り元気そうに見えた。
ヴィヴィはロシアの母の様に懐き、信頼している彼女ににっこりと微笑み掛ける。
「ええ。とっても。……ヴィヴィは、あんまり元気ではないみたいね?」
「そんなことは、ないですよ?」
ジャンナの千里眼には、ヴィヴィはいつも舌を巻く。
なんだか彼女には神通力とか、そういう科学では説明出来ない不思議な力が宿っているような気になってしまう。
「そう? ……今日はヴィヴィに、大事な話が合って電話したの」
そう続けたジャンナは、ふっくらして暖かそうな両手を、画面の向こうのテーブルの上で重ね、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。
「え……?」
(大事な話……?)
「先日、今シーズンの貴方達の振り付けについて、ジュリアンから依頼があったわ」
そう切り出したジャンナに、ヴィヴィは思い出した様に頷く。
「あ、はい。聞いています」
(確かマムが「連絡しておくわね」って、言ってたな……)
そう記憶を辿ったヴィヴィは、自分もデスクに両手を重ねて居住まいを正す。