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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          

「私、断ったの」

 きっぱりとそう発したジャンナの言葉は、直ぐにはヴィヴィに届かなかった。

 まさかそんな返事が返ってくるとは思ってもみなかった為、10秒程固まったヴィヴィは何とか咽喉から声を振り絞った。

「……え……? ジャンナ……?」

 ヴィヴィの声が震えているのに気付いたのだろう、ジャンナが苦しそうな表情を浮かべ、説明を続ける。

「ごめんなさいね。どうしても、ヴィヴィの振り付けは、今の私には無理なのよ」

「……無、理……ですか……?」 

 ジャンナの言う意味が全く分からず、常ならば歯に衣着せぬ物言いをする彼女にしてはその説明も要領を得ず、ヴィヴィは微かに眉根を寄せた。

「ええ……。今の私には、ヴィヴィ、貴女が見えない……」

 そう心をの内を吐露したジャンナの表情は、当惑したものだった。

 もしかしたら彼女自身、まだ戸惑っているのかもしれない――どうして自分はあれほど可愛がってきたヴィヴィに、振付してあげられないのだろうと。

「………………」

「そんな顔しないで、ヴィヴィ。ごめんなさいね。貴女が悪いのじゃないわ……。私が振付師として、こだわり過ぎるだけなのよ」

 謝ってくるジャンナに、ヴィヴィは何と返していいのか分からず、こちらも困惑の表情を浮かべて呟く。

「……い、え……」

 いつの間にか画面から逸らしてしまっていたヴィヴィの視線は、ジャンナに「ヴィヴィ?」と名を呼ばれ、またゆっくりと画面の中の彼女に戻された。

「決して先シーズンの『眠れる森の美女』に不満があったとか、それ以前の振付に問題があったとか、そういう事ではないの。分かる?」

 噛み砕いてゆっくりと説明しようとしてくれるジャンナに、ヴィヴィはちゃんと瞳を合わせて耳を傾けた。

「……はい……」

「前に、言ったわね……。『私はプログラムを創る時、基本的にはスケーターのその時の思いに近いプログラムを創る』と……」

「はい……」

(そうすると、とてもスケーター本人の心が入るからって……)

「そういうことなの。今の私には、ヴィヴィの “思い” が分からない……」

 一言一言言葉を吟味する様に、そう説明してくれるジャンナ。

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