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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          

「……分かり、ました……」

 ヴィヴィはそこでようやく、ジャンナの「振付できない理由」を納得した。

「ヴィヴィ……」

 そう呼ばれたヴィヴィは、また落ちてしまっていた視線をはっと上げ、画面のジャンナを覗き込む。

「あ……っ! え、クリスもですかっ!?」

(ヴィヴィのせいで、クリスまで振付を断られてしまったら……っ)

 今日一番、悲壮な表情を浮かべたヴィヴィに、ジャンナは少し驚いた表情と共に返事を返してきた。

「いいえ。クリスの振り付けは受けたわ」

「そうですか。良かった……」

 ヴィヴィは心底ほっとした。

 もうこれ以上、自分のせいでクリスに迷惑を掛けたくなかった。

 それも、彼が一番大事にしているスケートにおいて。

「………………」

 ヴィヴィは書斎の革張りの椅子から立ち上がると、一歩引いてジャンナを見つめ返す。

「今まで、本当にありがとうございました」

 深く一礼したヴィヴィに、ジャンナはとても複雑な表情を浮かべ、見返してくる。

「『シャコンヌ』でジャンナに成長させて貰えたから、『サロメ』が生まれた……。『眠れる森の美女』は、きっとジャンナには満足いく出来ではなかったかもしれないけれど、私には一杯、いろんな面で力を与えて学ばせてくれるプログラムで、本当に滑れて光栄でした」

 心を込めて一言では語り尽せない今迄の礼を述べたヴィヴィは、にっこりとジャンナに微笑んだ。

「ヴィヴィ……」

「本当に、本当に、ありがとうございました。クリスのこと、どうか宜しくお願いします」

 ヴィヴィは今までの感謝と、クリスについて、深々と頭を垂れた。

「ええ。分かったわ……、分かったわ、ヴィヴィ」

 ジャンナの瞳にうっすらと光るものがある事に気づいたヴィヴィが、ふっと笑う。

「どうか、お元気で。……ヴィヴィも、またジャンナに振付をしたいと思ってもらえるようなスケーターに……、一人の人間になれるよう、精進します」

「ええ、ヴィヴィ。ええ……。その時は、私の方から、貴女にアプローチするわ」

 そう言ってやっと微笑んでくれたジャンナに、ヴィヴィは「はい」と深く頷いた。

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