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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
「ヴィヴィ。これで縁が切れたわけではないわ。私は貴女の事を、娘や孫のように思っている。何かあったら、いいえ、何もなくても、連絡してくれると嬉しいわ」
「ふふ。ありがとう、ジャンナ。ヴィヴィも、そう思ってる」
ヴィヴィは砕けた言葉でそう言うと、瞳を細めた。
本当にそう思っている。
ジュニア時代――まだ殆んど無名だった双子を、母ジュリアンの子供だからという理由だけで、二つ返事で振付を引き受けてくれた売れっ子振付師。
彼女には技術的だけでなく精神的にも沢山育てて貰い、自分は本当にロシアの母だと思っている。
そして、自分の禁断の恋を一番初めに見抜いた人――。
「元気でね」
「はい。ジャンナも」
ぷつりと切れた映像に、ヴィヴィの微笑も立ち消える。
「………………」
ヴィヴィはゆっくりと広い樫の木のデスクに両手をつき、うな垂れた。
その肩をさらさらと、金色の長い髪が覆い隠す。
(五輪シーズン……。どうしても『サロメ』をやりたいとこだわったヴィヴィの共犯にまでなって、コーチ陣を唸らせるプログラムを作ってくれたジャンナ……。いつも一瞬でヴィヴィの心を見抜いて、励まし、時に叱咤し、導いてくれた大切な人――)
『今の私には、ヴィヴィの “思い” が分からない……』
そんなもの、分かる訳がない。
分からなくて当然なのだ。
当の本人でさえ、分かっていないのだから――。
(もしかしたら、先シーズン……。ジャンナはかなり無理をして、ヴィヴィの振り付けをしてくれたのかもしれない。もう昨年の時点でヴィヴィの “思い” が分からないのに、こうあって欲しいヴィヴィ――普通の16歳の女の子、恋に恋するような少女になって欲しいと、振付し……)
そして結局、自分は彼女の思いに応えられず、四大陸選手権で最低な構成点を叩き出してしまったのだ。
「断られて、当然……。ごめんね、ジャンナ……」
デスクに付いた両手の先、細い指先に力が入り、まるで引っ掻く様に強張る。
突然の事に頭の中がぐちゃぐちゃ過ぎて、しばらくそのまま動けなかった。