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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          

 しかし数分後、ヴィヴィは書斎の扉を開けると、リビングに控えていた朝比奈に声を掛ける。

「朝比奈……。私が頂いた名刺って、どこにあるのかな?」

 主の質問に、朝比奈は書斎へと歩を進めながら返事をする。

「名刺ですね? 紙ベースでも保管してありますし、住所録としてデータ化もしてありますよ」

「そう。見たいのだけれど」

「かしこまりました。どうぞ」

 手早くPCにAccessのデータベースを表示してくれた朝比奈に礼を言うと、ヴィヴィはその中から必要な人間をピックアップし、プリントアウトした。

「これ……、この方達の現在の活動拠点や滞在先、国の時差と現地情報等、調べておいてくれない?」

「畏まりました。……お嬢様? この方達は……」

 数枚のプリントの、その対象人物の共通点を確認した朝比奈が、不思議そうにヴィヴィを見返してくる。

「うん。ヴィヴィの今シーズンの振付師候補の先生達……。ヴィヴィ、ジャンナに振られたんだ」

 そう告白して肩を竦めせてみせたヴィヴィに、朝比奈が当惑の表情で見返してくる。

 ジャンナは篠宮邸にも何回も足を運び、父や匠海とも交流があり、家族ぐるみの付き合いと言ってもよいほどの仲だったのだ。

「……お嬢様……」

「大丈夫。くよくよしても、始まらないし」

 そう言って苦笑したヴィヴィに、朝比奈もゆっくりと頷いた。

「そうですね。ご立派ですよ」

「全然……。後、宮田先生が東京に来られる日があれば、出来れば直接お会いしたいのだけど、確認しておいて貰えるかな? それと、マム、いるかな?」

 例年振付けて貰っている宮田からは、既に今年の振り付けも引き受ける旨連絡があった。

「畏まりました。奥様は、後2時間後にはお出かけになられるようですが」

「そっか。話してくる……」

「行ってらっしゃいませ」

 朝比奈に送り出されて私室を出たヴィヴィは、長い廊下を歩きながら心を整える。

(ジャンナは大人だ。一方的に断ればいいのに、ちゃんとヴィヴィ本人に面と向かって断ってくれた。混乱を来たさない様に理由も伝えてくれた。責任感のある、本当の大人だ……)

 自分もそうありたい、そう思いながら、ヴィヴィは2階にある両親の部屋の扉をノックした。






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