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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第16章                 

 ヴィヴィは胸に置いていた両手を降ろし、宮田を見上げる。

 宮田は周りに人が多いことを気にして、人気のない通路の隅までヴィヴィを連れて行った。

「ヴィヴィ、どういうのがやりたいとかイメージある?」

 そう尋ねてくれた宮田にヴィヴィは少し眉間に皺を寄せながら、正直に伝える。

「実は全日本が終わってからずっと、やりたい曲を考えてたんです。FSはどうしてもやりたい曲が見つかって――まだコーチには言ってないんですけど――SPはなかなか絞り込めなくて……でも」

「でも?」

 先を促す宮田に、ヴィヴィは再度口を開く。

「はい。もし出来ればなんですが、日本古来の楽器を使った曲をやってみたいんです。えっと、きっかけは箏(こと)と尺八の音がとても澄んでいて、でも艶があって綺麗だなって気になったからなんですけれど……」

「へえ、和楽器?」

 ヴィヴィの意見に興味を引かれたように宮田が呟く。

「って偉そうな事を言っても、私は『春の海』とか『越天楽(えてんらく)』位しか知らないんですけど……」

 直ぐに自分の知識のなさを暴露したヴィヴィに、宮田が苦笑する。

 暫く腕を組んで考え事をしている様子の宮田だったが、腕を解いてうんうんと頷いた。

「うん、ちょっとヴィヴィに合いそうな曲に心当たりがある……本当は男子が滑るような曲なんだけど、ヴィヴィだったら、もしかしたらいけるかもしれない……」

「ほんとですかっ!?」

 宮田の好感触な返事に、ヴィヴィの顔がぱあと明るくなる。

 そんなヴィヴィを見て、宮田が直ぐに厳しい顔になる。

「ヴィヴィ、分かってる? 男子に滑らせようと思ってたほどの曲なんだから、きっと女子のヴィヴィにとったら鬼プロになるんだよ?」

「えぇっ!? そうなんですか……。いや、でも、く、喰らいついて行きますからっ! ぜひ前向きに検討してください!」

 それでなくても厳しい宮田の「鬼プロ」に一瞬ひるんだヴィヴィだったが、最後にはぺこりと体を折り曲げて必死にお願いをする。

「了解。僕も頑張ってみる。ところで、FSはどの曲したいの?」

 SPとFSの傾向が似ないようにと気にしてだろう、そう訪ねてきた宮田にヴィヴィは戸惑いを隠せなかった。

「え、えっと……」

 いきなり目線を泳がしてあたふたしだしたヴィヴィを、宮田が不思議そうに見下ろしてくる。
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