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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          
 



『僕がこの選曲をした理由を、

 今シーズンを通して、じっくり考えてみて?』



 
 先シーズン、振付けたプログラムに対して、宮田が自分に出したその宿題の答え。

「そうか。良かった……。また一つ大人になったんだな」

 感慨深そうにそう呟いた宮田のその言葉には、彼の懐とその愛情の深さが滲んでいた。



『そうやって一歩ずつ、

 いいスケーターに……いい大人になりなさい――』
 



 五輪シーズンのSP『海の路』を振付けてくれた際、宮田がくれたその言葉を思い出す。

(どうだろう……それは……。いい大人には、決して近づいていない気がする……)

 心の中でそこだけは疑問を呈し、ヴィヴィは口を開く。

「先生が出した宿題の答え――それは……」

「ストップ……。言わなくていいよ。ヴィヴィが今心の中で思っていること、それが答えだ」

 手を上げてヴィヴィの回答を遮った宮田は、そう言うと信頼の眼差しを寄越してくれた。

 その瞳にヴィヴィの心が熱くなった。

「先生……。あの、これ、貰って頂けますか?」

「これは……、いいのか?」

 ヴィヴィがおずおずと差し出した物に、宮田が心底驚いた表情を浮かべる。

 世界選手権SPの、金のスモールメダル――純粋にSPだけの順位で貰えた小さな金メダル。

「はい。宮田先生に貰って頂きたいんです」

「ありがとう。光栄だよ。……大切にする」

 ケースに入ったそれを受け取った宮田は、本当に心底嬉しそうに微笑んでくれた。

「いらなかったら、千太郎君のおもちゃにして頂いてもいいですよ?」

 宮田の子供の名前を出して、そうおどけて見せたヴィヴィに彼は苦笑した。

「あはは。一日でぐちゃぐちゃにされるわ! ちゃんと神棚に飾っておく」

「ふふふ。……で、話は変わるんですけれど。ちょっと迷っていまして……」

「何を?」

 いきなり当惑の表情を浮かべたヴィヴィに、宮田が少し身を乗り出して尋ねてくる。

「SPとFP、どちらを宮田先生に振付けて頂くかを……、です。ヴィヴィは正直どちらも見てみたいんですけれど、今後の事もあるので、今回はどちらかを新しい振付師に依頼しなければならなくて」

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