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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
4月11日~14日、クリスは横浜で行われた国別対抗戦に参戦した。
今迄ほぼ全ての試合をクリスと一緒に出ていたヴィヴィは、今回は受験勉強のせいで出場を断ったので、その期間中もずっと学校とスケートと受験勉強を両立し、試合は篠宮邸で使用人達とテレビ観戦で応援した。
「国別、楽しそうだった……。ヴィヴィ、来年は絶対、クリスと一緒に出たい~……」
そう寂しそうに呟いたヴィヴィに、帰宅したクリスは「僕も、ヴィヴィと一緒がいい……」と言って抱きしめてくれた。
4月後半。
「ヴィヴィ。それは違う、こうしな垂れる感じで……」
「こう、ですか……?」
ヴィヴィは振付を施す男性の動きをなぞり、後ろに上半身を逸らせたまま、左肩だけしな垂れる。
「うん、いい感じ。……そう、そうだね」
最初から音かけし、途中まで終わった振付をさらう。
フェンス傍まで戻ってきたヴィヴィに、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出した男は確認する。
「単なる男を演じるんじゃ、つまらない。それは男子スケーターに任せればいいこと。ヴィヴィが魅せたいのは、そんなものじゃ無いだろう?」
「はいっ カッコ良くて、色っぽくて、男も女も悩殺できるような娚(おとこ)ですっ」
ヴィヴィの意気込んだ強い声が、サブリンクに響く。
それを聞いて満足そうに笑うのは、高畑大輔。
現在33歳のプロスケーター。
そして、バンクーバーオリンピック銅メダリスト、2010年、2014年世界選手権金メダリスト。
2020-2021年度のエキシビションをどうしようか考えていたヴィヴィは、音楽とテーマだけは決まっていた。
音楽はJAZZのスタンダードナンバー『TAKE FIVE』の歌詞入りのもの。
そしてテーマは、先程口にした通り――男も女も悩殺できるような娚(おとこ)。
果たしてこんな(お子ちゃまなヴィヴィにとって)無理難題を抱えた振付を、誰に託そうか――そう悩んでいたヴィヴィは、物凄く安易に決めた。
(ヴィヴィが今まで見てきた中で、一番色っぽくで、艶っぽくて、魅了された滑りをしたスケーターにお願いしよう!)
そうして白羽の矢が立った高畑大輔は、ヴィヴィが直接電話をしたところ、
「振付? いいよ」
と二つ返事で引き受けてくれた。