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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
関西を活動拠点としている高畑とは、スカイプで何度も打ち合わせし、実際の振り付けは上京してもらった。
スカイプで打ち合わせをしている段階で、
「じゃあ、男装してみる?」
そう提案された時は、大きな目が零れ落ちそうなほど見開いて驚いたヴィヴィだったが、今となってはこれ以上の名案が思い付かないほど、このエキシビにはまっていた。
そしてこの又と無い機会を利用して、ヴィヴィは高畑の事を観察していた。
(う~ん。滑って無い時は、あんまり色気とか感じないのに、どうして氷の上に乗るとこんなに色っぽくなるんだろう?)
「ヴィヴィ? なんでそんなに、じ~っと俺の事、見てるの?」
「はい。大人の男性の色気を学ぼうと、観察中~」
ヴィヴィは大きな灰色の瞳を皿のように見開き、じ~っと高畑を見つめていた。
「あはは。普段の俺には、色気なんかないって」
「そうなんですか?」
「うん。観察するなら、陸上でも常に色気のある男のほうがいいんじゃない? 心当たりある?」
そう高畑に聞かれ、ヴィヴィの脳裏にある人物が浮かび上がった。
「……はい。約1名……」
「じゃあ、その人、観察したらいい」
「……今、傍にいないので……」
小さな声でそう呟いたヴィヴィの表情は、曇っていた。
「そっか。じゃあ、女性は? 色っぽい女性、周りにいない?」
「う~~ん……。いないっ!」
高畑のその質問に、黒いウエアの胸の前で両腕を組んだヴィヴィは首を捻って考えたが、そんな人物に心当たりはなかった。
「いるでしょうがっ ここに、すぐ傍にっ!」
いつの間に来たのか、母ジュリアンがサブリンクに表れて二人の会話に乱入してくる。
「え~~? どこ~? どこに色っぽい女性がいるのぉ~?」
額に手を翳して周りを探すふりをするヴィヴィに、
「こ~こっ ここっ!」
ジュリアンが自分の胸を両手で指し示し、大声で自分だと主張する。
「はいはい……」
そう言ってヘッドコーチをあしらうヴィヴィに、高畑が苦笑しながら話題を変える。
「ヴィヴィ、ちょっと歌いながら滑ってごらん? 歌詞、覚えてる?」
「はい、勿論。大好きな曲だからっ」
瞳を輝かせたヴィヴィは、言われた通り歌詞を口ずさみながら振付をなぞってみる。