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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
「いいね~。歌ったほうが断然いい! ノリノリだし、感情が入って表情も変わり、色気も出てくる」
「へえ。新たな発見ですっ!」
そう興奮したように言うヴィヴィの手から、いつの間にか傍に来ていたクリスが、小道具の中折れハットを取り上げる。
振付を進める二人の傍で、クリスはそれを弄ったり、指で回したり被ったりして遊んでいた。
鼻を噛もうとフェンス傍に寄ったヴィヴィは、まだ自分の帽子で遊んでいるクリスに気付く。
「くるりんぱ……」
ぼそりとそう呟きながら、帽子を両手でくるりと回して被ったクリスに、ヴィヴィが笑う。
「あははっ それ、もう一回やって!」
ヴィヴィのリクエストにもう一度「くるりんぱ」をやって見せたクリスに、今度は高畑が気づき爆笑する。
「ぶははっ クリス、何してんの?」
「竜平、さん……」
某お笑いトリオの一人を挙げたクリスに、高畑が面白がる。
「あはは! 入れよう、それっ 振付に!」
高畑とのエキシビの振り付けは、ヴィヴィに楽しい時間を与え、沈みがちだった心を軽くしてくれた。
高畑はヴィヴィの振り付け案も取り入れてくれたり、クリス考案の帽子プレイも幾つか盛り込んでくれたり。
そして高畑自身も振付を一緒に滑ってみたり、衣装はこれが良いだの変だの、3日間掛けて今シーズンのエキシビを作り上げてくれた。
「ヴィヴィ、これ、早くお披露目したいっ!」
心底楽しそうにそう発したヴィヴィに、高畑は嬉しそうに頬を緩めた。
「今年はアイスショー、出ないんだよね? じゃあ、初戦はジャパンオープン?」
高畑の言う通り、双子は受験生の為、今シーズンはアイスショーの出演を免除して貰った。
ただスケ連からは「双子が出演しないと、チケットはけるか……不安」と散々ごねられたが。
「いえ。グランプリシリーズの初戦ですね~」
「そうか。だいぶ先だね。GPシリーズのアサインも、あと少しか~」
高畑が昔を懐かしむような瞳で続けた。
ISUから事前にスケ連に発表された、GPシリーズ6試合+GPファイナル、の大会スケジュール。
双子は来年の1月にセンター試験を控える身でもあり、又世界ランキング1位なので、6試合のどれに出場したいか優先的に選ばせて貰えた。