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第82章 　 　 　 　 　

　そんなこんなで、とにかく双子は春休みと４月の間中、本当に慌ただしかった。

　予備校の『第２回　センター本番』という模試を受け、身を粉にして勉強に、もちろんスケートにいそしむその一方。

　先シーズンから着手している、オリジナルＣＤ、ＤＶＤ、書籍、タオルや縫いぐるみ等の双子の関連グッズの作成。

　スポンサーの大塚薬品工業、菓子メーカー・ｇｒｕｃｏ、生活用品メーカー・Ｐ＆ＪのＣＭ撮り。

　そして新たにスポンサー契約を、日本国際航空、健康器具メーカー・タニダと結んだ。

　また、英国グロッサリーメーカー・フォートナム＆メディソンとのＣＭ契約を結んだのは、驚きだった。
　
　英国王室御用達、世界中で知らない人間がいないであろうそのトップメーカーは、どうやらヴィヴィの先シーズンのエキシビ『不思議の国のアリス』に目を付けたらしく、契約を申し出てきたのだ。

「渡英してのＣＭ撮りは、本当に無理なので」

　泣く泣く契約締結を見送った代理人・牧野マネージャーに、

「じゃあ、フォートナム＆メディソンＪＡＰＡＮに、日本でのＣＭ撮り、任せるから」

　そんな破格の条件を付けてくれたそのこだわりに心打たれ、双子は日本でＣＭ撮りした。

「５月から英国と日本でも、放送するからね？」

　そう言われて出来上がってきたＣＭを確認し、双子は「「ははは……」」と何とも言えない笑いを零した。



　ブランドカラーの水色シャツワンピースに身を包んだヴィヴィが、昼下がりの庭先でアフタヌーンティーを楽しみながら本を読んでいる。

　その洋書の挿絵から現れたのは、執事の格好をして懐中時計を下げた白ウサギ。

　挿絵に吸い込まれたヴィヴィは、水色のワンピースに白いエプロンドレスのアリスに扮し、暗い穴をゆっくりと落ちていく。

　暗闇に浮かび散らばるのは、フォートナム＆メディソンを代表する、色とりどりのグロッサリー達。

　マーマレードの瓶、紅茶の缶、たらりとハニーディッパーから垂れる黄金色の蜂蜜、英国の数々のビスケット達。

　その一つに手を伸ばし、バランスを崩したヴィヴィを抱き留めたのは、　“狂った帽子屋”　の扮装をしたクリス。

　大きなシルクハットのリボンに挟まっているのは「１０/６」と書かれた紙。