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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          

 肩に “眠りネズミ” を乗せたクリスが、ヴィヴィを連れて “狂ったお茶会” を繰り広げるところで場面は現実の世界へと戻る。

 椅子に凭れて眠っていたヴィヴィがはっと目を覚ますと、目の前に座っていたのは、こちらもうとうとしている白シャツに水色パンツのクリス。

 唇の前に「し~っ」と人差し指をかざしたヴィヴィが、悪戯っぽく微笑んだところでブランドロゴが表示され、映像が途切れる。



(このベタなCM、英国にいるお兄ちゃん、見るのかぁ……)

 映像の出来上がりを確認した直後、そんな感想を真っ先に心の中で零したヴィヴィは、その自分の思考にも困惑したのだった。







 5月1日――クリスの誕生日に、翌日のヴィヴィの誕生日を合わせてバースデーパーティーを篠宮邸で催すと、その翌日の2日には双子はそれぞれ機上の人となり、振り付けへと旅立った。

(や、やっと、スケートに集中できる……)

 そう思ってしまうほど、4月は色々と慌ただし過ぎたのだ。

(お陰で、何も考える時間も無いほどで、助かったんだけど……)

 ヴィヴィは何とも言えない表情でビジネスクラスのシートから、外の景色を見つめる。

 どこまでも広がる白い雲海と真っ青な空とのコントラストに、心を奪われている訳ではない。

 昨日、バースデーパーティーの前にヴィヴィの元へと届いた、一つの小包。

 それは英国にいる兄からの誕生日プレゼントだった。

 一流ブランドのロゴの入った小さなケースの中で輝く、一対のダイヤモンドのピアス。

 ヴィヴィは自他共に認める経済観念の無さから金額は計れなかったが、高校生には高価すぎる、相当値の張る物なのだという事だけは分かった。

 英国在住の従姉妹やBSTの幼馴染の影響で、ヴィヴィは初等部の時点でピアス穴は開けていて、匠海も勿論それを知っている。

 開けた直後から自業自得なのに、「痛いよぅ……」と泣いていたヴィヴィを「痛いの痛いの飛んでけ~」とあやしたのは、他ならぬ兄なのだから。

「………………」

(ヴィヴィ、嬉しいのかそうでないのか、よく分からなかった……。

 お兄ちゃんがヴィヴィの為に時間を割いて選んで、

 プレゼントしてくれたものなのに……)

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