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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
「はい。昨日スカイプで喋って……、とってもいい顔してました」
「そうか。ジャンナ女史とも喋った?」
「ええ。いつも以上にお元気そうだったので、安心しました」
クリスとの会話に飛び入り参加してきたジャンナは、いつも通りバイタイリティ旺盛で面白かった。
(うん。ジャンナが言ってくれた通り、縁が切れたわけじゃない……)
「そうか。後、1時間で搭乗か……。ちょっと電話してくる」
そう断って席を立った牧野を見送り、ヴィヴィはソファーの背凭れに華奢な背を沈め、ふぅと息をついた。
10時にデトロイトを出発し、シカゴ経由で翌日の14時に成田に着く。
その後、松濤のリンクで振付の成果をコーチ陣の前で披露する。
そして数日空けてすぐに、宮田によるFPの振り付けも始まる。
(他にも、今シーズンから取り組んでる、アクセルの助走距離の短縮……。まだ全然だし……。勉強も……)
これからのスケジュールを思い浮かべながらも、眠気が襲ってきてヴィヴィの長い睫毛が下りていく。
その瞼が完全に降りた瞬間、バッグの中のスマートフォンが振動した。
ヴィヴィは寝ぼけまなこのまま、バッグを漁ると着信に出る。
「は、い……。もしもし……?」
耳に添えたスマホからは、何故か返答がない。
ヴィヴィは「ふわわ……」とあくびをしながら、何だろうと思いスマホ画面を見つめ――固まった。
「ヴィクトリア……」
スカイプ(テレビ電話)回線越しに呼び掛けてくる静かな声の主は、英国にいる匠海だった。
「………………」
小さな液晶画面に映るその姿に、ヴィヴィはしばらく反応出来なかった。
ただ、小さな胸の中は途端にざわざわと騒がしくなり、その表情は無表情から当惑したものへと変化していく。
落ち着きなく細動する灰色の瞳は、小さな画面上では相手には分からないだろう。
1ヶ月半ぶりに目にした匠海はというと、以前と変わらなかった。
ただ表情は少し硬かったが。
「ヴィクトリア、今、話しても大丈夫か?」
返事を寄越さない妹に、匠海が静かに問いかけてきて、ようやくヴィヴィは頷いた。
「……う、ん……」