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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
「あれ……? 今、日本じゃないのか? もしかして、まだロシアにいた……?」
双子が例年、GWにロシアに振付に行っていることを承知している匠海は、ヴィヴィの背後が日本時刻23時にしては明るい空で、外出着のままの妹に気づいたのだろう――そう訊ねてきた。
「えっ あ、ああ、うん……。今日、日本へ帰国で……、今、空港のラウンジ……」
ヴィヴィは何故か咄嗟にそう答えてしまう。
「そうか、悪かったな。ロシアは今……18時頃?」
「う、うん……」
再度、訊ねてきた匠海の見当違いな問いにも、ヴィヴィは曖昧に返した。
自分が現在いるここは、アメリカのミシガン州デトロイト、なのに。
「5日に、届いたんだ。誕生日プレゼント……」
「ああ……、そっか……」
やっとそこで兄が電話を寄越した理由に気付いたヴィヴィは、少しほっとして相槌を返した。
5月5日は匠海の誕生日。
4月から準備を始めて航空便で発送したプレゼントは、無事兄の手に届いたらしい。
「ありがとう。とても素敵なプレゼントだよ。凄く、嬉しかったよ……」
とても嬉しそうに微笑む匠海の顔よりも、ヴィヴィは兄の背後のほうに視線を移した。
計算間違いでなければ、オックスフォードは今昼の14時の筈。
大学の講堂なのだろうか、石造りの建物らしき場所は、少しだけ声が反響していた。
「そう? 良かった……」
取って付けたようにそう返事をしたヴィヴィに気付かないのか、匠海は続ける。
「みんなの今現在の写真まで入っていて……。ヴィクトリア、これ手配するの、大変だったんじゃないのか?」
匠海が言う写真というのは、デジタルフォトフレームの事だ。
世界フィギュアの時、誕生日プレゼントを「何が欲しいか考えておいてね?」と匠海にお願いしたのに、結局兄はうんともすんとも言って来なかった。
しょうがないので色々悩んで、デジタルフォトフレームに、匠海の友人知人から集めた昔と今の写真を収めて贈ったのだ。
そこに深い意味なんて無い。
「お兄ちゃんが寂しくない様に」それだけを考え、妹として出来る限りの事をしたいと思っただけだ。