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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章
「ううん。みなさん良くして下さって、喜んで賛同して頂けたから……」
手紙とヴィヴィからの直接の電話で、匠海の友人達は本当に快く協力してくれた。
面倒見のいい兄の、人望の厚さがあっての事なのだろう。
「そうか。とても掛け替えのない贈り物だよ。後、あれ……」
そう匠海が苦笑しながら「あれ」と指摘したのは、2体の縫いぐるみの事だろう。
1つは、クリスの先シーズンFP『牧神の午後』の衣装を着せた、クマさん。
もう1つは、ヴィヴィの先シーズンFP『眠れる森の美女』の衣装を着せた、ウサギさん。
それぞれ今年に入ってから、販売を開始した双子関連のグッズだった。
「『寂しくない様に、添い寝して下さい』って……。俺、23歳だぞ?」
妹が添えたメッセージカードの文句をなぞった兄に、ヴィヴィは聞き返す。
「可愛いでしょう?」
あの縫いぐるみは双子も意見を出し、制作に関わった自信作だ。
「いや、可愛いけれど……。ふっ ありがとう。嬉しいよ」
何か言いたげな匠海は、それでも最後は嬉しそうに眉尻を下げた。
「添い寝してね?」
ヴィヴィは真顔のまま、要望を口にする。
(ヴィヴィの全身写真の抱き枕、いらないって言ったのは、お兄ちゃんなんだから……)
「う~~ん。考えとく。……ヴィクトリア?」
「なあに?」
「元気か?」
「うん。お兄ちゃん、元気そう」
「ああ。毎日バタバタだけど、まあ楽しくやってる」
そう言って小さく両肩を持ち上げた匠海は、本当に楽しくやっているようだ。
3月に会った時に目にした寂しげな表情は、どこにも垣間見えない。
(杞憂……だったかな……。元気そうだし……)
「そっか」
そう答えたヴィヴィの視線の先、ラウンジの入り口に入ってきた牧野マネージャーの姿が目に入った。
「もうそろそろ、搭乗時間で……」
「ああ。忙しいところ悪い。じゃあ、気を付けて」
そう言って小さく手を上げてみせた匠海に、ヴィヴィは小さく頷いた。
「うん。じゃあね」
ぷちと通話終了ボタンを押したヴィヴィの元へ、牧野が戻ってきた。
「ん? 電話?」
「はい……」
そう言ってさっさとバッグにスマホを直したヴィヴィを見ながら、牧野はう~んと伸びをする。
「まだ、搭乗時間まで30分もあるな~」