この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          


『ヴィヴィは恋に夢見る少女時代をすっ飛ばして、苦しい恋を経験した……。

 でも、まだ全然若い。いくらでも、やり直せる』




 微かに耳朶を打ったその暖かな声は、ロシア人振付師・ジャンナの言葉。

「やり直す……? ヴィヴィは、やり直したいの……?」

 そう自問自答する呟きに返されたのは、いつも傍に寄り添い支えてくれる、双子の兄の静かな声音。

『そうだよ。ヴィヴィ、君はいくらでも、やり直せる……。ヴィヴィが、そうしたいと望むのならば……』

 その声は光の溢れる前方から聞こえていた。

「クリス……? そこに、いるの……?」

 瞳を細めて目を凝らすヴィヴィに返ってくる、優しいクリスの声。

『うん。いるよ……。みんな、ヴィヴィを待ってる……』

「みんな……?」

『そうだよ……』

「待ってる……?」

『待ってるよ……』

 オウム返しの様にも思えるクリスの声は、けれどヴィヴィの問いにきちんと答えてくれる。

「ヴィヴィ、を……?」

『うん、待ってる……』

 自分を待ってくれている。

 こんな暗闇に独り立ち止まり、右往左往している駄目な自分を。

 その言葉に勇気づけられ、ヴィヴィはその光の方へと駈け出そうとした。

 しかしそれを引き留めたのは、光とは全く逆方向の、暗闇の奥底から聞こえた兄――匠海の声。

「ヴィクトリア……」

「……――っ」

 咄嗟に振り返った背後から、舌が痺れそうなほど甘く囁かれる自分を呼ぶその声に、ヴィヴィは絶句した。

「ヴィクトリア……、違うだろう……?」

「……お兄、ちゃん……」

 優しく諭す匠海の声に、ヴィヴィが戸惑ったように視線を彷徨わせる。

「お前が自分で選んだのだろう? この荊(いばら)の道を――」

 匠海がそう囁いた途端、兄へと続く暗闇には、緑色の固い茎と蔦、そして無数の鋭い棘がざわざわと音を立てて広がっていく。

 それはまるで、眠れる森の美女が100年の悠久の時を幽閉されている、荊の城にも似通っていた。

「さあ、こちらへおいで……」

 声ひとつで自分を虜にする兄の囁きに、ヴィヴィは憑りつかれた様に頷いた。

(お兄ちゃんが、「おいで」って言ってる……)

『駄目だよ、ヴィヴィ……』

 引き留める、クリスの静かな声。

/2774ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ