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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第82章          

 ヴィヴィはパジャマの胸を掌で掻き毟る。

 胸が締め付けられるように苦しくてしょうがなかった。

 どうして忘れさせてくれないの。

 どうしてもう放って置いてくれないの

 匠海が少しでも優しい顔を見せれば、馬鹿な自分はすぐにころりと騙されてしまうと兄は分かっていて、どうして捨て置いてくれないの。

 冷たく抱くくせに。

 あんなに酷い事を言って傷つけるくせに。

 どうしてそんなに、自分なんかに執着する?

 ああ、兄妹というのは、なんて厄介なのだろう。

 切っても切れない。

 男女としての別れが訪れても、その後も永遠に死ぬまで続く、家族としての情と絆。

 そして紛れもなく二人を繋いでいる血――。
 
 ヴィヴィの瞳が、まるで目の前の事から逃げ出すようにぎゅうと閉じられる。

 目の前に広がるのは、先程の夢と同じ暗闇。

 こんな事、気付きたくなどなかった。
 
 自分は本当に、とんでもない男を愛してしまった。

 この先きっと、自分はどれだけ距離が離れようとも、匠海を思わない日はないだろう。

 万が一にも心が離れようとも、根底では絶対的に繋がっているその血というものを、呪わずにはいられないだろう。

 愛してる。

 愛している。

 もうその心はきっと死ぬまで変わらないし、もしかしたら死んでも切れないのかもしれない。

 だって自分達は “兄妹” なのだから――。

 そして実際に兄が執着しているのは、血の繋がった「妹」である自分の躰と、その禁断の交わりだけなのだから。

「………………」

(もしかして……、クリスも、そうなのかも……)

 ヴィヴィはゆっくりと瞼を開けると、鏡に映る自分を見直す。

 二卵性なのに自分と似通った容姿を持つ、大切な双子の兄。

 実兄と契る汚らわしい妹――そんな自分を受け入れてくれたクリスの発した言葉は何故か、匠海の自分への執着と似通っている気がした。
 



『離さないよ、ヴィヴィ。

 君は死ぬまで、いや……、

 死んだ後もずっと、“僕の片割れ”で、“僕の可愛い妹”でいるんだ』



 
 二人の兄の思いに共通するのは、そう――自分が彼らの「妹」であるということだ。






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