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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章         

「あいた゛た゛……っ」

 教室の椅子に腰を下ろした途端、ヴィヴィはおっさんの様な呻きをあげた。

 その声音は鈴の音を転がせたような、高めのそれなのに。

 紺地に赤ラインのワンピの制服に包まれた、その折れそうなほど細い腰に掌を添える。

(あぁ……、痛い……)

「ヴィヴィ……。あんた、一応女の子なんだから、ね……?」

 3年生に進級し、席替えで自分の目の前の席になったカレンが、呆れた様子でヴィヴィに忠告する。

「あ゛~~……。女の子……ねえ……」

(最近のヴィヴィ、自分が女って事、忘れてたかも……)

 ちらりとそう思ったヴィヴィの頭を、隣の席のクリスが撫でてくる。

「ヴィヴィはどこからどう見ても、可愛い女の子だよ……」

  “双子の兄としての贔屓目”が入りまくったそのクリスの言葉に、ヴィヴィは「ははは……」と乾いた笑いを零す。

 5月後半。

 ヴィヴィはジャンプの修正に苦戦していた。 

 アクセルジャンプの助走時間と距離の短縮、を新たに取り組んでいるのだが、なかなか長年の癖や勘を修正していくのは難儀な事。

 よってゴロンゴロンころぶようになってしまったヴィヴィは、その際に受ける衝撃で痛いのだ。

 掌で押さえている腰じゃなくて、その下のお尻が。

(助走の改良、な~……。ホントは先シーズン、取り組みたかったんだけど……)

 その前に3回転アクセル自体が飛べなくなったので、助走の修正にまで手が回らなかったのだ。

(ま、出来なかったんだから、しょうがない。今シーズン、頑張ればいいんだし)

 楽観的に考え直したヴィヴィは、お尻を少しずつずらしながら、痛くない座り方を模索する。

 そんなヴィヴィの内情を知っているカレンは、ヴィヴィの耳に掌を添えて囁いてくる。

「お尻……、湿布、貼ってるの……?」

 そう言って面白そうに親友を覗き込んでくるカレンに、ヴィヴィはぶすっとして口を開く。

「プシュ~っ」

「プシュ~……? ああ、なるほど……」

 ヴィヴィが呟いた擬音に首を捻ったカレンは、しかしすぐに納得した。

(湿布じゃなくって、無臭のエアーサ○ンパス、プシューってしたんじゃわいっ!)

 目の前の女子2人の訳の分からない応酬に、クリスは微かに首を傾げていた。

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