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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章         

 GWにアメリカでSPの振り付けを受け、帰国後に宮田にFPを振り付けて貰ったヴィヴィは、怒涛の4月よりはましだが、それでも忙しい日々を送っていた。

 何せ振付けてもらったプログラムを数えきれないほど滑り込み、自分のものにしないといけない。

 それと並行して、アクセルジャンプ以外のジャンプや、ステップのさらなる改良等にも取り組んでいる。

(でもヴィヴィだけじゃないし……。クリスも他の皆も、同じ様に頑張ってる……)

 正直上手く調整が進まなくて、落ち込んだり苛立ったりすることもある。

 けれどクリスをはじめとするリンクメイトも、離れた場所にいるライバル達もきっと、皆がそれぞれより自分の目指す滑りに近づけようと日々鍛錬している。

 だからヴィヴィはどれだけ転びまくってお尻が痛かろうと、日々を一生懸命過ごしていた。
 
 ドスン。

「……――っ」

(でも、痛いもんは痛んじゃ~っ!!)

 横尻をしたたか氷にぶつけたヴィヴィは、脳内でそう叫びながら、その場に蹲り痛みを堪える。

 フィギュアスケートを始める時、一番初めに習うのは上手な転び方。

 手や肘・膝を付いたりせず、お尻からボテンと行く。

 骨を付くとひびが入ったり、その先に繋がる筋を痛めて負傷したりするので、筋肉と脂肪の塊のお尻から転ぶのだが、そんなに毎回うまくお尻で転べる筈もなく。

(あ~あ……。もう、ヴィヴィの腰回りは青タンだらけですよ……。とほほ)

 基本下半身は、タイツやらアンダーウェアやら薄めのサポーターやら厚着なのだが、さすがに何度も繰り返し転ぶとあたりまえだが痛い。

「……ふふ……っ」

 氷の屑を纏ったヴィヴィは、その上に身を横たえたまま笑う。

(何と言うか……、お兄ちゃんが傍にいない時で良かった……。こんなお尻、見せられない……)

 そうくだらない事を思いながらゆっくりと身体を起こしたヴィヴィを、クリスが見下ろしていた。

「頭、打ってない……?」

 いきなり笑い出した妹に心配したのか、そう訊ねて手を差し出してきたクリスに、ヴィヴィは「大丈夫」とにかっと笑いその手を取った。






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