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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章
(アクセルの助走の修正も一進一退どころか、一進二退だし……。他にもやらなきゃいけない事、沢山……)
「失敗したら、どうしよう……」
思わず漏れた弱音は、どんどんひ弱な自分の心を蝕んでいく。
アイスショーも、先シーズンの国別対抗戦も、今シーズンのジャパンオープンに四大陸選手権も、自分が受験生だから特別に出場しなくていいと了承して貰えた。
そこには多くの犠牲が存在している。
アイスショーは、多大な集客の見込めるコンテンツである自分が出演しないことによる、売り上げ不振。
試合に関しては、放映権を持つ放送局の視聴率低下、スポンサーの不満等。
他にも子供の自分が知らされていないだけで、負の影響がある筈。
なのに、これだけ優遇して貰いながら、もし受験に失敗でもしたら――。
寒くもないのにぞくりとした華奢な身体は、そのまま武者震いに乗っ取られる。
怖い。
恐ろしい。
過度のプレッシャーは、自分にとって負にしか作用しないと嫌という程解っているのに、感じずにはいられない。
パタタと微かな音がして、ヴィヴィはそこに視線を落とす。
成績表の隅に落ちた数個の水滴。
「あ、れ……?」
水滴を指先で拭うのに、またパタパタと降り注ぐそれ。
泣きたくなんてないのに。
そんな事をしている暇があるのならば、過去問の1つでも見直したいのに。
涙腺が狂った様に溢れ続ける涙に、ヴィヴィは困った様に顔を上げ高い天井を見上げた。
きしりと音を立てて革張りの椅子に背を預ける。
しばらくそのまま放心したように上を見上げていると、涙が止まった。
昔、誰かに教えて貰った事があった。
涙が止まらない時、下を向いてはいけない。
上を向いていたら、零れる涙が頬を伝う際に徐々に冷えていく。
それを冷たく感じることで、頭と身体が冷静になり涙が止まるのだと。
これを教えてくれたのは、一体誰だったのだろう。
ヴィヴィはデスクの上のティッシュボックスから一枚抜き取ると、涙を拭いて鼻をかむ。
もうすぐ7月だ。
まだ7月?
もう7月?
受け止め方は人それぞれだろうが、自分にとっての7月は “もう7月” だ。
こんなことで一喜一憂していては、先が思いやられる。