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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章         

(この模試地獄……。次は9月、なんだよね……。その頃って、お兄ちゃんが帰国してて……。ヴィヴィ、乗り越えられるんだろうか……)

 また感じてしまった一抹の不安を、ヴィヴィは頭を振って追い払うと、クリスと勉強するための準備を始めた。







 翌週の日曜日。

 双子は早朝からリンクへと赴き、練習に励んでいた。

 サブリンクでアクセルを飛ぶヴィヴィを映像で収めた柿田トレーナーは、PC画面上の数値を確認する。

「ふむ……。滞空時間 0.70秒、高さ 59cm、回転速度 4.9回/秒」

 そう読み上げられた数値に、フェンス傍まで戻ってきたヴィヴィが頷く。

「回転速度、ちょっと落ちてますね……」

「うん。5月の時点では平均5.0回/秒だったしね」

 柿田はそう返しながら、PCの画面をヴィヴィに向ける。

 世界選手権以降ずっと点けている、3つの指標の経時変化グラフ。

 4月から比べると2ヶ月経過した今、滞空時間は価値ある100分の2秒を確保していた。

 すべては助走の改良のおかげだ。

 女子の3回転アクセルジャンパーと言えば、伊藤ミドリ氏と浅田真緒氏。

 滞空時間は、伊藤が0.73秒、浅田が0.67秒。

 高さは、伊藤が65.9cm、浅田が48cm。

 回転速度は、両者とも5.0回/秒。
 
 対照的な両者は、伊藤が強靭な脚力で稼ぎ出した余裕の滞空時間でゆったりと回転し、浅田が助走の勢いや胴体のひねりの力を効率よく回転に繋げている。

 そしてヴィヴィはその両者の中間といったところか。

「失敗した1本目。体の回転軸は氷面から63度だったが、今のジャンプ、80度と垂直に近くなった」

 柿田トレーナーの分析に、ヴィヴィが呟く。

「視線の位置……」

「そうだね。それを意識して、もう1本飛んでみよう」

 にっと笑った柿田に、ヴィヴィも表情を引き締めて「はい」と返事した。

 その後何本がジャンプを跳んでデータを取ると、練習終了の13時になった。

「お~な~か~す~い~たぁ~」

 そう唸りながらリンクから降りたヴィヴィを、クリスが後ろから追ってくる。

「おつかれ、ヴィヴィ……」

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