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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章
7月に入ってすぐ、双子は自身のHPでそれぞれ今季のSP、FP、エキシビションを発表した。
それらはYahooのトップニュースにもなったらしく、ヴィヴィの振付師が変更になった事と、エキシビがスケーターとして人気の高い高畑大輔の振り付けという事も、注目を浴びた原因らしかった。
ただ、匠海の反応は違った。
土曜日にいつも通りスカイプで電話をしたヴィヴィに、匠海は当惑の表情を隠そうとしなかった。
「どうして、ロシアの空港にいるなんて言ったんだ?」
「ジャンナから振付師が変更になったのは、何故なんだ?」
その匠海の問いを、ヴィヴィは曖昧にはぐらかす事しか出来ず、きっと兄はそんな自分に不信感を持った事だろう。
ただ、その演目については興味を持ったみたいだった。
「『喜びの島』、どういう風になるのか楽しみだ」
そう呟いた匠海の表情は何故か満足げで、いつ見ても端正な顔には、そこはかとない色香が滲んでいた。
翌日の日曜日。
本日の予定を全て終えたヴィヴィは、防音室で楽器の練習をしていた。
クリスも少し遅れてやって来て、トランペットとチェロを触り始める。
3年生に進級してから、双子は楽器の講師のレッスンを、週に1回から2週に1回に変更していた。
ヴィヴィは来週訪ねてくる、ヴァイオリン講師の出した課題を30分練習し、それを片すとピアノの前に座った。
今日訪ねてきたピアノ講師の出した課題の譜読みをすると、初見で弾き始める。
実は今日リンクでステップがふらつき、咄嗟に氷に手を付いてしまった。
その時に右手の薬指の爪が割れてしまい、処置はしているのだが鍵盤を押すと少し痛みが走った。
ヴァイオリンは左手で弦を押さえ、右手で弓を操るので、特に影響はなかったのだが。
課題を取り敢えず弾き終わったヴィヴィに、クリスが視線を寄越す。
「指、痛そうだね……?」
「ん……。大丈夫。ありがとう」
クリスは元来耳がいい。
少しだけタッチが遅れる右手の薬指の音を、聞き分けているのだろう。
じくじくと痛み出した指先に限界を感じ、ヴィヴィはピアノを磨いて片した。