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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第16章                 

「貴女はまだシニアに参戦したばかりの挑戦者よ。お姉さん方の背中を追いかけるつもりでリラックスして行きなさい」

「ふぁ~い」

 数か月前の全日本フィギュア後、テレビ局のインタビューで「双子を絶対オリンピックに出す!」と宣言した人と同一人物とは思えない助言に、ヴィヴィは内心「嘘つけ~」と突っ込みながら気の抜けた返事を返した。

「あ、そう言えば。さっきグレコリーから着いたって連絡あったわ。匠海も『今シーズン最後の演技だから、今までの最高の演技期待してる』って言ってたわ」

「わお。さらっとプレッシャーを増やさないで下さい……」

 そう虚ろな瞳でジュリアンに返した時、六分間練習の為のゲートが開かれた。

 ヴィヴィは大きく息を吐き出すとエッジカバーを外し、他の五人のスケーターがリンクへと出ていく最後尾から氷の上へと飛び出した。

 最終滑走のヴィヴィは、なるべく音楽を聴いたりストレッチをしたりしてのんびりした気分で順番を待っていた。

 係員に「そろそろリンク脇へ」と促され、ジュリアンと一緒にバックヤードからリンクサイドへと出る。

 目の前ではアメリカでSP2位に付けているグレイシー・シルバーが、輝くような笑顔でキャッチフットスパイラルを滑っていた。

 その表情と場内の雰囲気から、彼女がいい演技を積み重ねてきていることが容易に読み取れた。

 場内からの拍手がイヤホン越しに聞こえてきて、ヴィヴィの心臓がどくりと波打つ。

 ヴィヴィは瞼を閉じると深呼吸を繰り返す。

(私は私――。一番のライバルは自分なのだから……)

 周りの選手達がどれだけいい演技をしようともミスしまくろうとも、結局のところは自分が納得のいく演技をしないと成長しないし、結果も付いて来ない。

 そんなことはどの選手も分かっていること。

 ただ自分をコントロール出来るか、そうでないかで勝敗が決まるのだ。

 曲が終わり場内に大きな歓声と拍手が鳴り響く。

 観衆に笑顔で応えるグレイシーが礼をし終わったとき、ヴィヴィのためにリンクへのゲートが開かれた。

 ヴィヴィは投げ込まれた花達を踏まぬように気を付けながらリンクでアップを始める。

 プログラムを滑る直前のアップの方法も、しっかり練習に組み込んできていた。

 その通りに体を動かしていると、少しずついつもの自分に近づいてくる。

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