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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第16章                 

「グレイシー・シルバーさんの得点――128.74点。総合得点は195.70点。現時点の順位は第一位です」

 アナウンスが得点と順位を読み上げる。

 その得点は全日本のヴィヴィのそれを2点上回っていた。

「………………っ」

 途端に平常心に近づいていたヴィヴィの心がぐらりと揺れる。

 自分を守ろうと身体が発作的に動いたのか、咄嗟に胸へと手をやったヴィヴィの指先に、衣装越しに固い何かが触れる。

「あ……」

 ヴィヴィは思わずリンクの上で呟いてしまう。指先に伝わる愛しい感触にヴィヴィの胸が疼く。



「俺も『大好き』だよ、ヴィヴィ」



 このお守りをくれた時、そう言って妹をからかった匠海の表情が脳裏に蘇る。

 ヴィヴィは俯くと笑いを噛み殺した。

 確か兄にそう言われた後、恥ずかしくて「やっぱ、嫌い――っ!!」と思ってもいないことを叫んで逃げてしまったのだ。

 思い出している今でもあまりの自分のガキっぽさに笑みが零れてしまうが、それを何とか噛み殺しフェンス傍のコーチの元へと戻る。

「なにニヤニヤしてるの?」

 呆れた表情でそう言ってくるコーチに、ヴィヴィは「何でもないです」と誤魔化す。

「ま、いいわ。『SMILE』っていう手間省けるから……行ってらっしゃい」

 まるでさっさと行って来いという風にコーチが掌をひらひらさせた時、名前がコールされた。

「ヴィクトリア篠宮さん、日本」

 ヴィヴィは膝を屈伸するとちらりと日本の応援席のほうを振り返ってから、リンクへと出て行った。

 横を向いて両腕で頭と腰を抱きしめるポーズをとる。

 数秒後印象的なヴァイオリンの和音が鳴り響き、ヴィヴィは動き始める。

 すぐにトップスピードまで上げていつも通り踏み切る。

 空中にいる間はまるでスローモーション。

 コマ送りに周りの観客やメディアの大きなカメラが目に入る。

 軸を正しく保ったまま余裕をもって着地し、スピードを殺さず次のジャンプへと意識を向ける。

 冒頭のトリプルアクセルと決めるとだいぶ心に余裕ができる。

 軽く右足を振り上げる。

 確実に三回転半回りきっていること確認して着地し、コンビネーションでトリプルトゥーループも高さを保って降りた。

 続くジャンプを跳びながらも、頭の中は今シーズンの出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。

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