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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章         

 ヴィヴィはペン先を顎に当て「う~ん……」と小さく唸ると、やがてきゅきゅと音を立てながら、お願い事を短冊にしたためた。

 背伸びをし、それを笹のなるべく上のほうにこよりで結ぶ。

 両足を地についてそれをじっと見上げていたヴィヴィは、しばらくしてきょろきょろとラウンジスペースを見渡した。

 3人程いる生徒達から死角になる太い鉄筋柱が目に入り、そこにあるソファーに腰を下ろす。

 背凭れにぽすりと背を預け、その上に金色の髪を耳の後ろで2つに結った頭を乗せた。

「高等部3年になっても、ツインテール……。さすが『お子ちゃま』ヴィヴィ……」

 今朝教室に入った途端、皆にそう言われてしまったヴィヴィは、

「暑いんだもんっ いいさいいさ、『お子ちゃま』で~っ!」

とちょっとむくれてしまった。 

 今年の夏は猛暑らしく、まだ七夕なのに異常に蒸し暑い。

 髪が首に張り付くのが嫌で、ツインテールにしただけだったのだが、クラスメイトには『ロリータ』と揶揄されてしまった。

 BSTは英国をはじめ欧米やオセアニア出身の生徒が主なので、いかんせん日本人の同学年の子達より骨格からして大人っぽい。

 彫りが深く目鼻立ちがはっきりし身体も大きく発育も良いので、どうしても童顔のヴィヴィは『お子ちゃま』と言われてしまう。

 まあ本当の理由は、本人の性格や衣服の好み、常日頃の言動がその主な理由なのだが、ヴィヴィ本人は「自分のこのつるぺた童顔のせいでそう言われる」と思い込んでいた。

 そして『お子ちゃま』と言われ始めたのは、確か中等部2年の頃から。

 その翌年、14歳の今頃、自分は匠海を男として愛していると知ってしまった。

「もう、3年も経ったんだ……」

 ヴィヴィの薄い唇から、小さな独り言が零れ落ちる。

(今の、17歳のヴィヴィは知っている。

 14歳でお兄ちゃんを愛していると自覚した時には知らなかった、

 男女の営みを、身を以てして知っている……)

 灰色の大きな瞳が、ちりりとした熱を持ち潤み始める。

(お兄ちゃんの昂ぶりも、逞しい胸も、達するときの切なそうな表情も、

 熱い息も瞳も、ヴィヴィの心も躰も全てを貪り尽くそうとする様も、

 ……全部……知っている)

 それこそ夢に見てしまう程。

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