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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章         

 たぶん、今の自分は兄に会いたいのだろう。

 けれど、今の兄に再会したら、また傷付けられるのだろうなという、妙な自信がそこにはある。

 だから、無邪気に「お兄ちゃんに会いたい」と言えないし思えない。

 よく分からない関係だと思う。

 『妹』として――近親相姦の相手として兄に躰を求められ、執着されているのに、心は無視され、傷つけられる。

「………………」

 ヴィヴィは膝丈のタータンチェックスカートを纏った両脚を胸に抱き寄せる。

 まるでそう小さくなる事で、匠海から自分の躰と心を守ろうとするかのように。

(今のお兄ちゃんは、本当に荊(いばら)のよう……。

 香しい芳香と甘美な蜜、そしてその美麗な華で容易に虜にするくせに、

 少しでも深くなろうと近づくと、無数の棘で傷つけてくる……)
 
 その兄の姿はまるで、棘で自分の中の何かを守り、防御しているようにさえ見える。

 荊――それはつる性の野ばら。

 ヴィヴィの頭の中に、ドイツ民謡『野ばら』の歌詞が浮かぶ。




 少年が見つけた 小さな野ばら

 とても若々しく美しい

 すぐに駆け寄り 間近で見れば

 喜びに満ち溢れる

 薔薇よ 赤い薔薇よ 野中の薔薇




 少年は言った 『君を折るよ』

 野ばらは言った 「ならば貴方を刺します」

「いつも私を 思い出してくれるように」

「私は苦しんだりはしません」

 薔薇よ 赤い薔薇よ 野中の薔薇




 少年は野ばらを折った

 野ばらは抵抗し 彼を刺した

 傷みや嘆きも 彼には効かず

 野ばらはただただ 耐えるのみ

 薔薇よ 赤い薔薇よ 野中の薔薇




 
――――――――――――――――――

※ シューベルト作曲 『野ばら』

  日本語訳の歌い出しは「童(わらべ)は見たり 野中の薔薇」てやつです。

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