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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章
ヴィヴィの灰色の瞳が一瞬昏く濁った。
手折ってやろうか。
そんなに抵抗ばかりして、いつまで経っても自分に心を寄越さないなら。
いっそのこと、手折ってやろうか。
ヴィヴィはそこまで思い、はっと自分の過ちに気付く。
「………………」
もう手折ったではないか――。
自分はもう既に、兄を手折った。
自分を庇い傷ついた匠海を拘束し、力づくで奪い、穢した。
そしてその結果、自分は今こうしている。
(自業自得……てことか……)
ヴィヴィは腕で抱き締めていた両脚を解き、床に下した。
ごろんと背凭れに乗せた小さな頭から、「ふはぁ……」と気の抜けた息が漏れる。
(どんだけ成長して無いんだ、ヴィヴィ……。
また同じ過ちを繰り返そうとするなんて……)
「…………はぁ……」
唇から零れるのは、溜め息ばかり。
頭に浮かぶのは、後悔と自責の念ばかり。
その耳に、向かいの初等部の校舎から、童謡『七夕』の合唱が聞こえてくる。
高等部と初等部では1コマの長さが違うので、もう昼休みは終わり午後の授業が始まっているのだろう。
低学年の少年少女の、透き通った美しく高い歌声。
まだ穢れを知らない純粋で清らかなその精神。
(見るなら今現在の夢じゃなくて、昔の……まだ無邪気にお兄ちゃんを兄として愛している頃の、純粋な夢が見たかったな……)
そうすれば自分もきっと夢の中でも、本心から兄を求められただろう。
まるで今から綺麗な夢を見直そうとでもいうように、ヴィヴィの長い睫毛を湛えた瞼がゆっくりと落ちていく。
「ヴィ~ヴィっ」
いきなりそう名を呼ばれ、ヴィヴィははっと覚醒した。
「……え……、あ、ああ、アレックス。どしたの~?」
ヴィヴィは驚き、声の主であるクラスメイト 兼 クリスの親友のアレックスを見上げ、にっこりと微笑んだ。
「どうしたって、訳じゃないけど……」
そう言って横に座ったアレックスに、ヴィヴィは小さく首を傾ける。
「ふうん? あ、バスケしてたんだ?」
ヴィヴィは彼が手にしていたバスケットボールを認め、笑った。
「……ヴィヴィ? 俺ら幼馴染、だろう……?」
いつも明るくて元気なアレックスにしては妙に静かなその声音に、ヴィヴィは驚いて彼を見返す。
「え? うん」