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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第83章
「笑いたくない時は、俺らの前でまで、無理して笑わなくていいんだぞ?」
「……アレックス……」
アレックスのその言葉に、ヴィヴィの顔から笑顔が剥がれ落ちた。
「俺らは本当にヴィヴィの笑顔が大好きだけど、それ以上に “そのまんまのヴィヴィ” が大好きなんだからな?」
そう言って優しく微笑んだアレックスに、ヴィヴィはくしゃりと泣き笑いのような表情を浮かべる。
ダッドにも言われたではないか――“スケーターのヴィヴィ” じゃなくそのまんまの “ただのヴィヴィ”を愛していると。
「……うん。ありがとう……ごめんね」
自分は本当に幸せ者だと思う。
上辺だけじゃなく、ちゃんと心の内まで分かってくれる幼馴染が沢山いる。
もちろん両親、兄弟も。
「ヴィヴィって、今、好きな人いる?」
唐突にそう尋ねてきたアレックスに、ヴィヴィはぽかんとその顔を見上げる。
「え……? ど、どうしたの、アレックスってば?」
「いや……ちょっと、気になって……」
珍しく歯切れの悪い物言いをしたアレックスにヴィヴィは首を捻るが、やがて静かに自分の心を口にした。
「……いるよ。好きな人」
「そう、なんだ……」
自分のスカートの膝に視線を落としたヴィヴィは、静かに続ける。
「うん。とても大切な人で、ヴィヴィ、愛してるの」
こんな風に周りの人間に自分の気持ちを口にしたのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。
「……じゃあ、なんでそんな哀しそうな顔する?」
そう続けたアレックスの声が妙に静かで、ヴィヴィは咄嗟に視線を上げた。
「え……?」
(哀しそうな顔……?)
視線を合わせてきたヴィヴィに、アレックスは真っ直ぐその瞳を射抜いてくる。
「ヴィヴィ、愛してるって言いながら、全然幸せそうには見えない……」
「………………」
自分の全てを簡単に見透かしたアレックスに、ヴィヴィはただ彼の緑色の瞳を見返す事しか出来なかった。