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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
「……え……?」
成績表を皿のように見開いた瞳で熱心に見つめていたヴィヴィは、隣のクリスが発した言葉を聞き逃してしまい、顔を上げた。
「こら……」
そう言って妹の金色の頭にこつりとゲンコツを落としたクリスに、ヴィヴィは「てへっ?」と変な笑い声を上げる。
篠宮邸のクリスの書斎。
その中央に置かれた大きな樫の木のデスクに隣同士に腰かけた双子は、いつもこうやって一緒に勉強していた。
「ごめんね、もう一回言って?」
柔らかな微笑みと共にそうお願いすれば、クリスは小さく頷いて口を開く。
「模試の結果が予想以上に良かったから、8月の英国への帰省、してもいいよ……?」
「………………」
せっかく言い直したのに無言の妹を、クリスは眉を眇めて不審そうに見つめてくる。
「ヴィヴィ……? 聞いてる……?」
「……あ、うん、聞いてる。ごめん……ビックリしただけ……」
そう言って目を瞬かせたヴィヴィに、クリスが微かに首を傾げる。
「びっくり……? 自己採点、そんなに悪かった……?」
「ううん……。成績表の点数と、ほぼ同じだった……。そっか~」
ヴィヴィはそう弁解すると、再度手元に広げた模試の成績表に視線を落とす。
7月2週目に受けた模試『7月 難関大』の結果、ヴィヴィはまたA判定(安全圏)を取り戻した。
それでも『教育兄』のクリスのこと――てっきり「受験生に夏休みなんてありません」とぴしゃりとやられると思っていたのに、いきなり毎年恒例の夏の渡英を許されたので、正直びっくりしたのだ。
「マムが言ってたんだけど、今年は8月初旬のアイスショーに出演しないから、お盆辺りに帰省しないかって……」
「あ、いつもは8月後半に帰省してたもんね?」
「うん。だから渡英するなら早めに返事してくれないと、お盆辺りの航空機チケット取るの大変って……」
「あ~、なるほど……」
ヴィヴィは母の言う事も「ごもっとも」と思いふんふん頷く。
「どうしたい、ヴィヴィ……?」
自分の意見を求めてくれるクリスに、ヴィヴィは即決できなくて眉をハの字にする。