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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章             

「ん~……。ちょっと、考えてもいい? クリスは? イギリス行きたい?」

「う~ん……。まあ12月の世界選手権で皆には会えたし、受験生だから今年は帰らなくてもいいかな、とは思ってる……」

 そのクリスの意見にも「ごもっとも」と同感したヴィヴィは、小さく首肯する。

「そうだよね……」

「まあ、僕はヴィヴィに合わせるから、考えといて? じゃあ、昨日の復習から始めよう……」

 そう言ってこの話題を打ち切り、勉強モードへと切り替えたクリスに、ヴィヴィは「は~い」と素直に頷き、テキストを開いた。







 その2日後の土曜日。

 夏休みに入ったヴィヴィは、自分の書斎でPC画面を見つめていた。

 画面に映し出された匠海は、面白おかしく今週一週間の自分の近況を話してくれていた。

 微笑みを浮かべてそれに耳を傾けていたヴィヴィは、匠海に請われて自分の近況――「『7月 難関大』模試がA判定だった」と口にした。

 本当はFPのステップシークエンスでよくこけてお尻が痛いとか、SPの表現がいまいちしっくりこないとか、良くない近況なら山ほどあるのだが、口にする気は全く起こらなかった。

(わざわざ心配をかける必要も、弱みを見せる必要もないだろうし……)

 頭の隅でちらりとそう思っていると、匠海がふっと笑った。

「もうすぐだな?」

「え……?」

 兄の言葉が何を指しているのか、咄嗟には判らなかったヴィヴィが、短く疑問の声を上げる。

「8月、英国来るんだろう? 5ヶ月ぶりに会えるの、凄く楽しみにしてる」

 当然のようにそう言われ、ヴィヴィは戸惑った。

 まだ自分はクリスにも母にも、渡英するとは返事していないし、まだ迷っている。

 正直、8 : 2 の比率で、今年の渡英は止めようかと思っていた。

「……会いたいの?」

 何故そんな事を確認しようと思ったのだろう、気付けば唇からそう言葉が零れていた。

「当たり前だろう?」

 間髪入れずに返された匠海の返事。

「そう」

「そうって、お前は違うのか?」

「え?」

 逆に聞き返されたヴィヴィは、いつの間にか下してしまっていた視線をふっと上げる。

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