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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章             

「ヴィクトリアは俺に会いたくないのか?」

 スカイプの回線越しとはいえ、こちらを真っ直ぐに見つめてくる匠海の瞳には、どこか有無を言わせぬ力が籠っていた。

「あ、会いたいよ……」

 その答え以外は許されない様な気がして、ヴィヴィは求められるがままにそう呟いていた。

「そうか。じゃあ、楽しみにしてる……、って言っても、お前達と過ごせるのは、せいぜい食事かお茶の時間くらいなんだろうけれど」

「どうして?」

「去年同様、受験生だから勉強漬けで、リンクにもまた毎日通うんだろう?」

 そう言って苦笑しながら肩を竦めた匠海に、ヴィヴィは頷く。

「そう、だね」

「それでも俺は会えたら嬉しいよ。待ってるな?」

「うん……」

 回線が途切れた途端、ヴィヴィは咄嗟に心の中で呟く。

(嘘、吐いちゃった……)

 兄に会いたいかどうか自分でも分からないのに、そう口にしてしまった。

「…………8 : 2 か」

 ヴィヴィの薄い唇から、嘆息と共に零れるその呟き。

 その比率は、今の匠海とヴィヴィを表わしているよう。
 
 匠海が8喋って、ヴィヴィが2相槌を打って、求められたら喋って。

 世界選手権以前の2人は、その比率が反対だったのに。

 結局クリスに「英国に帰省する」と伝えたヴィヴィは、自業自得ながらも、それから憂鬱な日々を送る羽目になった。








「クリス、ヴィヴィ。航空機のチケット取ったからね? 8月10日~14日はロンドンに、14日~17日までエディンバラに滞在よ~」

 7月最終週、母ジュリアンにそう告げられた。

「もう2週間も、ないんだ……」

 就寝前。

 自分のためのハーブティーを淹れていたヴィヴィは、ぼそりとそう零した。

「渡英までに、ですか?」

 控えていた朝比奈が、ヴィヴィの独り言に反応して返してくる。

「え、あ、うん……」

 心の中で呟いたつもりが、声に出してしまっていたとは。

 バツの悪そうな表情で、ヴィヴィは目の前のガラスのティーポットに視線を落とす。

 今日のハーブはローズバッズ(薔薇の蕾)。

 鎮静効果があるそれに、少しでも癒されたいと選んだ。

 ポットの中に、蕾のガクを取り除いた花びらを入れ、そこに熱湯を注ぎ8分ほど待つ。

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