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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章             

 薄紫色の花弁から抽出される成分をじっと見つめるヴィヴィに、朝比奈はそれ以上声を掛けて来なかった。

 ヴィヴィはティーカップへとそれを注ぐと、その1つを傍に控える朝比奈に差し出した。

「たまには付き合って?」

 ぽんぽんとソファーの隣を叩いてみせたヴィヴィに、朝比奈は一礼して隣に座った。

 常の彼なら受け入れないだろうが、多分感じ取っているのだろう、主の元気が無い事を。

「遠慮なく頂きます」

「ふふ。本当はお酒の方がいいんでしょう?」

 そう茶化してにやっと笑ったヴィヴィに、朝比奈が苦笑する。

「どうでしょうね。今日もファンレターが、沢山届いておりました」

 朝比奈のその言葉に、ヴィヴィは微笑んだ。

「そっか。オフシーズンでメディアに露出もしてないのに、ありがたいね」

「それだけお嬢様が皆様から愛されているという事でしょう」

 カップを手元のソーサーに戻した朝比奈が、瞳を細めて隣のヴィヴィを見下ろしてくる。

「あ、朝比奈……。寒イボ、立った」

 ヴィヴィは半袖のナイトウェアから剥き出しになった両腕を手で擦って、“執事馬鹿”発言をした朝比奈を咎めた。

「ふふ。ざっと目を通させて頂きましたが、“今年もTHE ICEの双子プログラム、楽しみにしていたから残念” というご意見が多いようでした」

 ちなみに朝比奈が主宛のファンレターに目を通す理由は、危険物の有無の確認と、心無い誹謗中傷の内容でないかを確認するためだ。

 後者に至っては、たまにある。

 有名税というには少し手痛すぎる気がするが、露出が増えるということは敵も増えるということだ。

「あ~、真緒ちゃんからも直々にお電話貰ったのに……。本当に出たかったな~、THE ICE……」

 ヴィヴィが神と仰ぐ浅田が主催するアイスショー、THE ICE。

 今年も出演依頼をされ、昨年好評だった双子のペアプログラムも依頼されたのだが、断った。

 受験の為にアイスショーへの不参加、グランプリシリーズと世界選手権、全日本選手権しか出場しないと公表した手前、THE ICEだけ特別扱いは出来ない。

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