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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
ベッドの上に座ったままのヴィヴィにクリスが近寄り、その隅に腰を掛けた。
「やっぱりまだ、眠れてなかったんだね……」
「え……?」
クリスのその呟きに、ヴィヴィは驚きの声を上げる。
そんな妹に片手を伸ばしてきたクリスは、大きな瞳の下の皮膚を撫でた。
「最近、寝不足っぽかったから……。目の下、少し暗くなってた……」
「あ……、そっか……」
クリスの指摘に咄嗟に自分の顔に手をやったヴィヴィ。
しかしその手はクリスに柔らかく掴まれた。
驚いて見返した双子の兄の瞳に浮かんでいたのは、こちらも柔らかな色。
「ヴィヴィ、泣きたい時は、泣いていいんだよ……」
「……え……?」
いきなりそう切り出され、ヴィヴィはぽかんとクリスを見返した。
(なんで、今、泣こうとしてたの、分かったんだろう……)
そんなヴィヴィを覗き込むように、クリスが見つめてくる。
「ほら、前、言ってたでしょう……? 女の人は泣くと、意外にすっきりするって……」
「あ……」
『体からいろんなものを出すって、ストレス解消にいいらしいよ?
えっと、涙もそうだし、汗もでしょ?
あと、意外なところで、よだれ垂らしまくるのもいいらしいよ?』
それは昨年、英国の父の生家でリンクに行こうとしたヴィヴィが、匠海の言葉に傷つき泣いてしまった時、弁解のつもりで発した言葉だった。
「ほら、おいで……」
そう誘いながら、掴んでいたヴィヴィの手首を軽く引き寄せるクリス。
「だ、大丈夫……」
ヴィヴィは小さく頭を振る。
さらりと波打つ金色の髪から、先程洗ったばかりのシャンプーの香りが立ち上がる。
ふるふると振り続けるその頭の中にあるのは、少しの罪悪感と少しの戸惑い。
(泣くのは一人で出来るもん……。そこまでクリスに迷惑ばかり、掛けられないよ……)
けれどクリスは聞き入れてくれなかった。
「一人で泣かれるの、嫌なんだ……。僕でよければ、胸、貸すから……」
その言葉にヴィヴィは言葉を失った。
7月の模試地獄。
結果が振るわず、そして匠海の事もあり、取り乱して書斎で一人泣いてしまった自分。
クリスはそれを知っていたというのか。
「………………」