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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第84章
「……ほら、おいで……」
その囁きと共に、妹に腕を広げて見せるクリスに、ヴィヴィの小さな顔がくしゃりと歪んだ。
「……クリスぅ~……」
ぼたぼたと零れ落ちる大粒の涙を見られたくなくて、ヴィヴィはクリスの胸に飛び込んだ。
小さな嗚咽を漏らす妹の、その震える肩を優しく抱きしめてくれるクリスに、ヴィヴィは必死に縋り付く。
優し過ぎて泣けてくる。
自分が情けなくて泣けてくる。
自分の周りには素敵な大人、魅力的な友人・家族が沢山いて、ヴィヴィはいつも彼らのようになりたい、こうありたいと願っている。
そしていつまで経っても、理想の人間に近づけていない自分。
なのにその理想だけはどんどんと大きく膨れ上がっていき、現実の自分との乖離が激しくなる一方で。
そして自分の胸の殆どを占める、匠海とのジレンマ。
(もう、いや……、怖いっ 逃げ出したい……っ 恐いよ……。お兄ちゃんといると、自分が自分でなくなっちゃいそうで……)
5分ほどクリスの胸を借りて号泣したヴィヴィは、泣き止んだ頃にはかなり楽になっていた。
ティッシュを差し出してくれたクリスに、恥ずかしながら鼻を噛み、涙を拭ったヴィヴィは、鼻声で謝罪した。
「今まで……“鬼”とか、“どS”とか思って、ごめんね……」
「え……そんなこと、思ってたの……」
物凄く悲しそうな瞳でそう返してきたクリスに、ヴィヴィは慌てて付け加える。
「だ、大分前ね……。東大目指し始めた頃……。ご、ごめんなさい……」
両手をベッドについて謝るヴィヴィを、クリスがその肩に手を付いて上を向かせる。
「ヴィヴィ、違うでしょう……?」
「え?」
「ありがとう、って言って……」
そう言って覗き込んでくる自分そっくりの瞳が慈愛に満ちていて、ヴィヴィはまた泣きそうになった。
「……クリス、ありがとう」
(そうだ……。クリスには、「ありがとう」が似合う……。ヴィヴィ、もうクリスに「ごめんなさい」って言わなければならない事、したくない……)
「どういたしまして……」
瞳を細めて頭を撫でてくるクリスに、ヴィヴィは少々困惑した。
「ほんと、優し過ぎるよ……」